最近見たもの、聴いたもの(29)


2001年3月28日アップロード


2001.3.21.

今日はまじめに(え、いつもはマジメじゃない?)、論文のアウトラインを作る。ラジオのために書かれた音楽の歴史的な背景となるところで、「聴き手にとって親しみやすい音楽様式とは」という問題と、ナショナリズムの問題だ。どちらも、全米にネットワークを持っていた頃のラジオ局の話で、ヨーロッパと似ているようで違う。アメリカのネットワークは政府の介入の度合いが低く、商業主義の影響が強いからだ。しかしアメリカ音楽が紹介された番組は「サステイニング・プログラム」といって、商業ネットワークのなかでも、公共サービスとして、非商業的な営みだった。そこに働く微妙な社会的な影響力と音楽の関係について述べてみたいと思っている。

カルチュアル・スタディーズとかいう分野にも、どうやら手を染めることになるのかもしれない。とりあえず、Simon During編のThe Cultural Studies Readerを入手。その他にも、GansのPopular Culture and Hight Culture、LevineのHighbrow/Lowbrowなどを読んでいる。ポピュラー文化とは何か、シリアス・ミュージックとは何か、こういった根源的問題は、大変難しい。うまくアイディアがまとまるのだろうか??? 一方、ヨーロッパラジオと比較しながら、アメリカのラジオ史もやらねばならない。図書館からごっそり本を借りてきたが、どうも気が重い。

アメリカ音楽の最近の状況を集めるために、ネットサーフィンも始めた。最近、本当にいろんなサイトができたんだなあ、と感心するばかり。New York Timesの日曜版の音楽記事も、やっと今日読みはじめた。


2001.3.20.

今日図書館でネットサーフィングをしていたら、Hatレーベルの現状に驚かされた。どうやらスポンサー不足で財政難に陥っているらしい。あれほど良質なCDを出しているのにペイしないとは(あるいは、出している「から」だろうか?)。やはり芸術というのは難しいな、と思わずにはいられない。将来的には何とかレーベルを存続させたいという意向を述べてあるのだが、奇特な会社がスポンサーになってくれると、私としては、本当にうれしい。どうでしょ、日本企業のみなさま?

今日も教授と会って、論文のアウトラインについて話す。ラジオの聴衆には、それなりに親しみやすい音楽を与えるべきなのだろうが、そこに作曲家の「創造性」はどうかかわってくるのかという問いかけが必要になってくる。以前NAPPさんの掲示板でも、この辺りの議論になったことがある。ナショナリズムの問題は、ネットワークが本質的に持つ、全国家的な影響力と、それが音楽的にどう反映されているのかという問題(旧ソ連やナチスのプロパガンダなども、自然と議論の中で考慮されるべきなのかもしれない)。そして、作曲家たちによる「アメリカーナ」の表現の問題という、社会と音楽様式にかかわる議論。どちらも骨の折れそうな内容だ。今週は、これらの問題を、なるべく当時の資料から考えたいと思うので、図書館でマイクロフィルムを覗くことになるかもしれない。一方で、歴史的背景として、ラジオの歴史についても考えねばならない。商業主義的な色濃いアメリカのラジオ局とBBCを中心としたヨーロッパ型のネットワークとの違いについても考えるべきだろうと思う。

主任教授とミーティングが終わった帰りに、コミッティーの先生の一人に会い、そのまま、バンタイというタイ料理店へなだれ込む。まじめに学問や将来の話もしたが、女性関係や風俗の話などにも触れたり。いや〜、面白かったっす。大学の先生といったって年齢的には僕とは6歳くらいしか違わないはずだし、もともとオープンな人なので、話やすいといえば、話しやすい。大学院生だから受ける特権の一つなのかもしれないなあ。彼の教えているガムラン・アンサンブル、またやってみたいなあ。


Wagner, Richard (1813-83). Tirstan und Isolde. Tristan: Ben Heppner; Isolde: Jane Eaglen; Brangane: Katarina Dalayman; Kurwenal: Hans-Joachim Ketelsen; King Marke: Rene Pape; Production: Dieter Dorn; Set and Costume Designer: Jurgen Rose; Lighting Designer: Max Keller; Metropolitan Opera; James Levine, conductor. PBS "Live from the Metropolitan Opera."

「トリスタン和音は機能和声を崩壊させ、20世紀音楽への道を開いた」という音楽史の記述ばかり頭にあると、この作品の大切な部分を忘れてしまうような気がする。その豊かなドラマ性、登場人物のうごめく心理、復讐劇と愛の結末。やたらとドラマの進行が遅いなどという偏見を持っていたので、ワーグナーのうまいペース配分に改めて驚く。第2幕のデュエットが長い? いや、あの長さがあるから、後が生きてくるのではないだろうか。

演出は、華美さをあえて排除し、照明の陰影を微妙に使ったもの。おそらくテレビだと、本来の照明の効果は体験できていないのだろうが、会場では不可能なクローズアップもあり、一長一短ではないかと思う。


2001.3.22

論文計画書を、コミッティーの先生の一人に見てもらったのだが、かなり好評で、これで、滞(とどこお)りなく、執筆の方にかかれそうだ。修士論文の文章からは、考えられないくらいほどの洗練さ、などと言われると「本当かいな?」と思ってしまう。実際、ここに到達するには、他の先生にも助けてもらっているので、完全には実力でないことは分かっているつもりだ。


2001.3.24.

ダン・ステーマンから送られてきたハリス作品のラジオ放送を聴く。ハリスの音楽には当たりはずれがあるけれど、本当にひどいというのは、それほどないような気がする。古い録音だったが、楽しく聴いた。


2001.3.25.

私が今いる、ルター派の教会では、Lutheran Book of Worshipという賛美歌集を使って礼拝をやっている。伝統的な賛美歌も残っているが、新しいものも入っている。新しいといっても、現代音楽というのではなく、ポピュラーとクラシックの間という感じ。でも今日はバッハのコラールで礼拝を始めた。カンタータ第4番で使われているものだが、なぜか歌詞は英語。どうもドイツ語の発音は、アメリカ人にとって、難しいようだ(牧師さんは大丈夫みたいだけど)。来週はモーツァルトの《アヴェ・ヴェルム・コルプス》を歌う。もちろんラテン語でやるが、これだけでも、結構大変なようだ。「unda」という言葉でも「アンダ」と発音しそうだからなあ (^_^;;


2001.3.27.

Mozart, Wolfgang Amadeus, arr. Mozart Goes to a Party. CBS MDK 45267.

Mo's Art (Free Flight); Alleluja from Exsultate, jubilate (Canadian Brass); Ave Verum Corpus (Canadian Brass); "Sleigh Ride" (NYP; Bernstein); Marriage of Figaro Overture (NYP; Bernstein); Turkish March (Philharmonia Virtuosi of New York; Kapp); Eine Kleine Nachtmusik (Budapest SQ & Julius Levine); Marriage of Figaro Suite--Don Giovanni Suite--Abduction from the Seraglio Suite (Member of London Symphonic Band; Snashall); The Magic Flute suite (Canadian Brass and Members of London Symphonic Band; Snashall)

おそらくBGM用に作られたCDだろうから、これをBGMとして聴く。公立図書館に置いてあったものなのだが、どうもこの手の「企画モノ」が多い。商売としては、こういうのもいいのだろうか。アレンジでないものも入っている。「そりすべり」や《フィガロ》の序曲などは、そのまま聴いても、「パーティー」になるのかもしれない。冒頭のFree Flightというポップなアレンジの「Mo's Art」というのは、タイトルからして趣味が悪いし、音楽としても受け付けなかった。ポピュラー音楽だったら、もっといいCDがあるからなあ。まあ75分近く曲が入っているのは良心的ということなんだろうか。聴き流すCDなんだろうな。カナディアン・ブラスのは、ショーマンシップがあって聴かせるけれど、バーンスタインのとか、ブタベストのはねえ(あれ、こっちはシリアスにやってる方か?)。

ジャケは映画「アマデウス」の一場面といった感じ。タイトルだけの解説書。映画を見た人が、買うのをあてにしたんだろうなあ。

そういえば小学校のころ、集会のための音楽として、《トルコ行進曲》が使われていたことがある。ピアノとオーケストラが協奏曲のようにうまくアレンジされていて、てっきりそれがオリジナルだと思っていたものだ。あれは誰の演奏だったんだろう。


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