最近見たもの、聴いたもの(23)


2000年8月1日アップロード


2000.7.22.

tokyo species. 500Press Records 5P-001.

東京在住の13の若手作曲家・創作ユニットによる、メディアを使った作品群。プロの作曲家もいれば、サウンド・アーチストや写真家も。いずれも「東京の音」を作品に含める以外には、何にも拘束されることのない創造的な営みである。

個々の作品の出来不出来については、いろいろあると思うのだが、一聴したところ、興味深い音世界と、それに対する多様なアプローチに強い関心を持ったことは確か。

なお、アルバム・タイトル決定に際しては、私の意見も聞いていただきました。


2000.7.23.

Bailey, Derek, et. al. Fairly Early Derek Bailey with Postcripts. Emanem 4027.

$9.99だったので買ってきた。ギターによるフリー・インプロヴィゼーションとはいうが、その音色と表現の豊かさに驚かされた。こういう音楽は、最終的な形が分からない一筆書きといった趣がある。

しかし、こういうジャンルでオリジナルであることは、どういうことなのだろう。記憶のなかにある他の人の作品が、いつのまにか即興のなかに入ってしまうと、とたんにクリシェになってしまうだろうし。もちろん「0からの創造」というのはありえないないのだろうけれど、「フリー」であることの難しさ、あるいは「フリーであり続けること」の難しさがあるような気がしてならない。

収録曲の中には、コンサートの文脈を抜けだし、ラジオがバックグラウンドに入っていたり、会話が入っていたりというものも。自然に浮かんできたものを即興し、記録したといった感じの流し録りのようだ。こういう即興の提示の仕方もあるのか、と認識をあらたにした。

Goodman, Benny. The Famous 1938 Carnegie Hall Jazz Concert. Columbia/Legacy (Sony Music) C2K 65143.

名盤ということは知っていたし、ボストン時代に、ファンだという友人から聴かせてもらったことがある。なぜか買っていなかったのだが、お店で「完全盤」の触れ込みをみて、ついに入手することにした。何でも新しくマスターが発見されたとかで、以前は編集されていた部分も今回は含まれているのだという。私は前のバージョンを自分で聴いたことがないので、そのありがたみは、あまり分かっていない。

それにしても、絶頂期というのは、何にしても良いものだと思う。スイングというけれど、これは完全に実用音楽の域を越えているし、興奮度が高い。解説書には、古い音源固有のノイズは脳で処理してほしいとある。たしかにこれほどの音楽をスクラッチ・ノイズくらいで聴かないのはもったいないし、イコライザで音が変えられてしまうのも、ファンにとっては耐え難いものがあるのだろう。


2000.7.24.

ハリー・パーチの《バーストー》などが入ったコロンビアLPが届く。ずっと欲しいと思っていたのでうれしい。CRIのパーチコレクションに入っている新しい録音は、どうも好きになれない。45ドルはちょっと高いと思ったけれど。《怒りの妄想》、ボーナス・ディスク付150ドルはあきらめた。きっとそのうち誰かに買われるだろうけれど。昔ボストンではボーナスなしが88ドルで売っていた。でもCDが出たからなあ。

イーストマンからファックスが届く。読みたい論文のマイクロフィルムが取り寄せられそうだ。ちょうど他の人も申し込んでいるそうで、その分早く複製プロセスに入るようだ。ラッキー。


2000.7.27.

Brahms, Johannes. Fantasies, Op. 116; 3 Intermezzi, Op. 117; Piano Pieces, Ops. 118 and 119. Wilhelm Kempff, piano. Deutsche Grammophon 437 249-2.

ブラームスは、確かに濃密な和音を頻繁に使うから、濁りやすいのは確か。しかし、ピアニストによっては、それを内実ある表現として使っていると思う。しかし、ケンプには、残念ながらそれほどのものを感じない。録音のせいもあるのかもしれないが、おそらく和音の鳴らせ方が、いま一つしぼり切れていないからであろう。彼のべートーヴェンにも、同様な問題を感ずる。複雑な和音が、濁ったように聞こえる場合と、独特の緊張感を生み出す場合とでは、作品の持つダイナミズムや訴える力に大きな差がでると思う。

ただ、旋律に対するケンプの嗅覚は評価すべきだろう。対位法の見事さを発見するには、参考になる演奏かもしれない。

Ikeda, Ryoji. 0℃ Touch TO:38.

音素材的には、割と身近に存在しそうな様々な電子音。しかしその素材の構成によって、思いもかけぬ音楽ができあがるものだ。はっと思わせる瞬間や、乱れ打つ音の交錯など、スピードの緩急のコントロールがあり、一方で、静的に音を提示する(やや続きすぎと感じる所もあるが)部分がある。


2000.7.28.

ローカルのFM放送は、金曜日、朝から3時間アメリカ音楽のみを流す番組をやっている。この局の名物企画のようだ。他の地方のラジオ局にも、さすがにこんな番組はないだろう。ただ、現代--実験ものはなく、19世紀後半から20世紀初頭ものが中心。それに、結構同じ曲がかかったりすることもある(ホスト本人に聴いたら、あえて気にしていないそうだが)。この番組を聴いて、私もデヴィッド・アムランの《「赤い河の谷間」による変奏曲》も買ったものだ。しかし、どうやら、3年間続いたホスト、チャールズ・フリーマンは番組を降りると宣言。これが、もし教職がみつかったためだとしたら、おめでたいものだ。番組がなくなるのは、ちょっと残念だけど。

公共放送の「Performance Today」は、今週はずっとバッハ。今日は特に命日ということもあって、聖トーマス教会で行われているバッハ・マラソン演奏会からの一部が放送された。《トッカータとフーガ》など、最近は随分自由奔放に演奏されるようになったようで、驚き。即興もかなりのレベルに入り込んできているものだ。その他、最近キエフで発見されたという、バッハ最後の作品も放送された。なんでもクリストフ・ヴォルフがこれを、自筆による作品の最後と鑑定し、バッハが自分の葬儀のために書いたということだそうである。


2000.7.30.

Gruppo di Improvvisazione: Nuova Consonanza. Musica su schemi. Cramps (EMI Music Italy) 8 57448 2.

Schema Nos. 1-3, Ommagio a Giachinto Scelsi

こういう即興音楽をどう評価するのか、筆者は十分な視点を持っていないのだが、時にテンションがぐぐっと高くなり、インタラクティヴな緊張感が音だけでもかなり聞き取れるのは確かだ。楽器の選び方も面白いが、それ以上のものがある。

《ジャチント・シェルシのためのオマージュ》は、おそらく大真面目にやっているのだろうけれど、うまくパクっているな、というのがこちらの感想である。

今日の『Performance Today』は、先週からのバッハ特集の続き。しかし、今日は、あのP. D. Q. Bachも登場(いいのかよ〜)。しまいには、J. S. バッハが金銭上の不平をもらした手紙をナレーターに乗せて進めるシックリー(なぜか本名)の《A Bach Portrait》も放送された。もちろんこのタイトルは、コープランドの《A Lincoln Portrait》から採られたもの。バッハの引用も悪くないのだが、私にはコープランドの方が楽しめた。特に中間部で、《ビリー・ザ・キッド》の決闘シーンが出てきたのには大笑い。これ、CDになっているのかな? 車の中で聴いたので、エアチェックしてないし。


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