最近見たもの、聴いたもの(10)


2000年3月6日アップロード


2000.3.5.

Syria: Sunnite Islam. EMI (Italy) 3C064-17885 [LP].

久しぶりの民族音楽。特に感動したのが、ジクルという、アラーのための礼拝。装飾をともなった歌もいいけれど、集団がだんだんと陶酔してくるのが感じられるのが圧倒的。

Seychelles 1: Danses et Romances de l'Ancienne France. Ocora 558 534 [LP].

西洋に植民地化された時に持ち込まれたのか、楽器もギターやフィドルが使われているが、マラカスのようなシャカシャカしたパーカッションとともに、生命力溢れる音楽が聴ける。B面のロマンスは、例えば近年の古楽で聴くフランス中世のロマンスを想像すると、呆気に取られた感じがするけれど、もしかして、こういうのが本当だったのかなぁ、などと思ってしまうこともある。お世辞にもうまい歌だとは思わなかったけど。

今日は10時半くらいから、WFSVのStaring at the Sun(「実験音楽」の番組)のスタジオを訪問。即興でLPやCD音源のミックスをやっている2人のところへお邪魔(素材の展開が一人にしちゃ見事過ぎる、と思ったら、2人だったのか。納得!)。2つのターンテーブルに乗っているLPには、小さなシールが貼ってあって、針が先へすすまないようになっている。なるほど。針がず〜っとつまったようになっていたのは、そういう仕掛けか! LPは、ほとんどGoodwillという、リサイクルショップで手に入れるそうだ。以前面白く聞いたLPは、「遊園地」というタイトルの音とナレーションによる「作品」として、LPレコードに収録されていたもの。その他にも、ディズニー・レーベルのLPも、やはり語りと音楽路線のものだった。その他、メルツバウなどのノイズ系や、アヴァン・ポップ系が素材として使われているよう。フォルク・ラーベの「何?」もあった。私も電子音楽やコンクレートの古典や、ニコラス・コリンズ、サウンドスケープなどのCDを持ち込み、即興に参加。スポーティーな音の遊びは、エキサイティングなものだった。こういうのを一度体験すると、次にどういう音源を選ぶべきなのかという基準が変わってくる。素材として面白いものは何か。ミックスしてもぶつかり合わないものとは何か。ダサい音楽が面白くなったり、LPレコードのスクラッチが、かえって効果的になったりするもんだという発見もあった。

それにしても、2時間、何でも好きなことをやっていい、そういうお遊び空間を提供してくれる、学生主体のラジオ局は面白い、と思った。12時から担当のDJの車がパンクで、遅れたため、ちょっと時間を延長させた。このいいかげんなところがいいなぁ。

以前に、自分の即興を録音したことはないの? と最後に質問されたけど、これは私にたいする褒め言葉と受け取っていいのだろうか?


2000.3.4.

ベートーヴェン ディアベッリ変奏曲 ジョルジュ・プルデルマシュ(ピアノ) 仏Lyrinx LYR CD 056

45分半で快適に弾き切った衝撃的な演奏。もう少し弱音も効果的に使った方がいいのではないかという気もするが、これは録音のせいかもしれない。しかし、そんな微細なことは全く気にならない息を飲む展開。こういう変奏曲というのは、発想が豊かな作曲家が多様な音楽語法をつかって効果的に展開しなければ飽きてしまうのだが、ベートーヴェンはさすがだ。プルデルマシュは、アレグロの箇所がプレストになったりもするので驚いてしまうが、明晰で聴き応えがある。より重厚なルドルフ・ゼルキンとともに、好きな演奏だ。


2000.3.3.

ボリス・コゼヴニコフ 交響曲第3番「スラヴャンスカヤ」(ジョン・R・ブルジョワー版) ジョン・R・ブルジョワー大佐指揮米国海兵隊軍楽隊 米国海兵隊軍楽隊アルバム「Director's Choce」収録

もう15年ほど前になるだろうか、旧ソ連の吹奏楽団による演奏で、この重厚で民族色の濃い作品を聞いたのは。しかし、なぜか当時のエア・チェック・テープには3つの楽章しか入っておらず、しかもそれで納得していたものだ。しかし、このCDを見ると楽章は4つ。第4楽章は、ややエンディングなど、くどい感じがするけれど、楽しめる作品だ。以前ベルリオーズの吹奏楽のための交響曲を海兵隊軍楽隊で聴いた時は、妙にアメリカの戦車のような響きばかり前面に出て、やや辟易したところもあったが、この作品では、あまりそういった「国の響き」に対して、違和感は感じなかった。解説書によると、ブルジョワーの版によって、この曲は初めて紹介されたに等しいということが書いてあった。案外、日本ほどには知られていない作品なのだろうか(というか、私がたまたま聴いて知っていただけだろうか?)。アルバム同時収録は、「ローマの松」(ガイ・デューカーによるトランスクライブ。素晴しい演奏!)、ベルリオーズの「ハンガリー行進曲」、(ハワード・ボーリンによるトランスクライブ)、ワーグナーの「タイホイザー序曲」(スーザ(!)によるトランスクライブ)、チャドウィック(!)の「ジュビリー」(これも素晴しいテクが聴ける)、グラナドスの「ゴイエスカス」から間奏曲(ブルジョワー編曲)。ちなみに、ロシア系では、ミャスコフスキーの交響曲第19番も好きだ。数年前、「ブラスのひびき」でかかったMonitor盤をボストンで入手したのは感動だったなぁ。ひで〜音質なんだけど。

Music Educator's DR Presents Music for Winds and Percussion Volume 4. MEDR HSB-004.

こちらも吹奏楽CD。全部を聴いた訳ではないが、クリフトン・ウィリアムズの「ドラマティック・エッセイ」のトランペットは、アーティキュレーションがレガートっぽく、これは違和感があった。以前に聞いたレヴェリ盤などでは、割と切って演奏されていたから。あとはジェンキンズのAmerican Overtureというのが聞き覚えがある。どこの団体が演奏していたのだろう?


2000.2.29.

ブルックナー 交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」ノヴァーク1877年版
ニコラス・アーノンクール指揮アムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
独Teldec 4509-98405-2

すっきりとした、シャープな響きのする、輝かしいブルックナーだ。おそらく、クナッパーツブッシュやベームと対極をなすような解釈である。しかし、私自身は、こういう方向があっていいと思うし、いわゆる「ブルックナー嫌い」には、むしろこういうアプローチが受けるかもしれない。すっきりとしているといっても、決して重厚さが消えた訳ではなく、それはスピーディーな音の立ち上がりとともに、襲いかかってくるような感じである。個人的には、ベーム/VPOよりも好きだ。


2000.2.27.

シューベルト 八重奏曲D. 803(作品番号166) The Academy of Ancient Music Chamber Ensemble. L'Oiseau-Lyre 425 519-2

重厚な響きのする室内楽だ。メンデルスゾーンのとは違って、弦楽四重奏にコントラバス、クラリネット、ファゴット、ホルンを加えた編成。ベートーヴェンの七重奏曲に似た感じ。といっても、単純にディヴェルティメントやセレナードが複雑になったものとも捉えがたいのも確か。いや、この印象は、もしかしたら古楽器による演奏のせいなのだろうか。特にビブラートを抑えた弦楽器は、ロマンに浸り切ってしまうことを拒んでいるようにさえ聞こえるし、そのアーティキュレーションも、やや鋭角だ。確かに同時期の深遠な弦楽四重奏とは一線を画しているのかもしれないが、どうも単純に聞き流すだけではもったいないようにも思える。それがシューベルトのロマン派たる特徴であるといえば、そうなのかもしれないが。演奏時間ほぼ1時間というのも長大だ。

モーツァルト 魔笛 グラインドボーン音楽祭オペラ ハイティンク指揮LPO
米Video Artists International 69003

比較的小さな舞台で行われる演出だが、その分細かいところに気がきく感じ。グランドオペラ用のステージでは、アットホームなドラマは演出しにくい。この作品、シカネーダーのリブレットが問題にされるようだけれど、こういうコミカルな筋の場合は、結構筋の通る通らないというのはどうでもいい問題なのかもしれない。何かほっとする瞬間があればいいのかもしれない。


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