最近見たもの、聴いたもの(1)


1999年3月27日



99.3.7.
Tallahassee Symphony Orchestra; David Hoose, conductor. March Concert. Florida State University Women's Glee Club; Judith Bowers, music director. Luby Diamond Auditorium, 8pm.(ライブ)
1曲目はヘンデル作曲、トーマス・ビーチャム編曲の<忠実な羊飼い>組曲。プログラムには、今日、レコードではオリジナルの演奏は手軽に聴けるが云々、と言い訳が。時代がかわると、こういうことも書かなきゃならなくなったんですね。演奏はリズムがはっきりして切れ味が良かったですが、ややアンサンブルの弱いところがあり、とくに緩徐楽章の表情が弱かったと思います。休憩の後は、ホルストの<惑星>。生で聴くのは2回目。冒頭の木管のアンサンブルがまだ練習不足。不安なスタートでしたが、リズムの刻みがしっかりしていて、グランカッサも遠慮無く叩きます。メリハリのあるダイナミクスで楽しめました。オルガンがなく、シンセで代用なのがちょっとしらけましたが、まぁ音色としては許容範囲でした。でもやはり風圧がなかったですね。<<金星>>では、やはり弦楽器のアンサンブルが気になりました。木管の方は案外よかったです。<<水星>>は、バラバラになりそうな木管にひやひやしましたが、何とか指揮者が引っぱり、OK。<<木星>>ではラッパが1小節早く入りそうになるなどの小事故もありましたが、シャープな切れ味で良かったです。ティンパニーは本当に見物(みもの)ですね。<<土星>>に限らず、会場のせいなのか、指揮者のせいなのいか、やはり緩徐楽章は表情が弱いです。ダイナミクス的な膨らみがうまく出てこないし、平板になりがち。もっと大胆にやってもいいんじゃないかなぁ。ヴァイオリンやっている友人が、「うるさい曲でね」と演奏会前に言っていたけど、それは、やっぱり静かなところがうまく生かされていない証拠ではないかな、と思いました。<<天王星>>は、やはり一変して快調に。でもやや荒っぽさが目立ちました。<<海王星>>の合唱は、完全に舞台裏だったので、オケとのブレンドがいま一つ。でも雰囲気はでていたと思います。全体的には学生も半分以上入っているオケなので、上出来、だったかな。指揮は、もっとアンサンブルを練り上げる必要があると思った。リハ、もう少しやるべきだったかな。次のコンサートはアメリカ物をやるらしいので、今から楽しみ。

99.3.8.
Blues Like Showers of Rain. Directed by John Jeremy. Rhapsody Film.(ビデオ)
おそらく歴史的に重要な映画なんでしょうけど、映画というメディアを充分には活用していないような。スライド写真と音楽、なんですよねぇ。しかし、個々の発言内容や実際のブルースは、なかなか面白く聞けるものもありました。しかも、それらは淡々と記録されているから、過度にロマンティックにならないんですよね。素材に語らせるって感じですか。ブルースって割と型もしっかりしているし、クールに進むんだけど、それだからこそ、心に響くのかもしれません。

British Rock: The Legends of Punk and New Wave. Vestron Musicvideo.(ビデオ)
う〜ん、僕、面白いとは思わなかったですね。『伝説』とタイトルがついているけど、実際は1977年に流行だったグループの紹介って感じだし。まだまだ知識がないけど、主張としては分かるが音楽としてはイマイチって感じ。

99.3.9.
サウンドトラック 天空のラピュタ--飛行石の謎--. Studio Ghibli Records TKCA-70227.(CD)
『ラピュタ』、もうのめり込んで一月くらい経っていますが、ついにサントラを入手しました。お目当てはオープニングテーマとエンディング(オープニング曲は傑作じゃないですか?、ま、ニューエージ→フランセ→チャイコ・ラフマニノフ、とかいわれるかもしれないけど)。ま、どちらも同じ旋律を違うキーでやっているだけなんですが、面白いくらいにキャラクターが変わりますね。久石譲の音楽、以前友人から借りたPiano Worksからは、私の昔聴いていたイージーリスニングの路線かと思っていたのですが(私はイージーリスニングも良いものは良いと思いますが久石さんのはちょっとダメでした)、結構ドラマティックなものも書けるんですね。これ、サントラとはいっていますが、実際には、映画で使われていたBGMがかなり聴けるので、満足しています。ま、パズーのラッパの音だしのプヘーという音が入って無いとか、細かいこと言い出すと切りがないですけど(でもCDで聴くと、このラッパ、それほどうまくないような…)。それぞれのトラックにタイトルがついていますけど、こういうのって、後から付けたんでしょうねぇ。きっともともとはBGM1-25とかいう曲だったんだろうなぁ。BGMじゃないとだめかな、と思いましたけれど、結構聴ける曲もあるもんです。久石譲、見直しました。ボツになった曲(や部分)も入ってますけど、僕は使わなかったのは妥当な選択だと思いました。あの映画、音楽もよく編集されてます。はやく、こっちでビデオが発売されてほしい!(でも、厳しい目で見れば、やっぱりこのCDは、映画を見た人が聴くもんだと思う)

99.3.12.
"Tryin' to Get Home: A History of African American Song" Written and Performed by Kerrigan Black. Heebie Jeebie Music.(ビデオ)
ケリガン・ブラックのナレーションと演奏による黒人音楽への個人的回想という感じ。僕はドキュメンタリーの方が好きなんだけど、とりあえず分かりやすく歴史を解説してくれるし、いいんじゃないですか。労働歌とか、その他のア・カペラものは、やっぱりアラン・ロマックスのビデオがいいなぁ。スコット・ジョプリンとかミュージカル入ってくると、何となくシラけちゃうし(いや、嫌いじゃないんですけど)。ミンストレル・ショーもありましたけど、あういうのって黒人音楽の歴史になるのかなぁ? デューク・エリントンのメドレーでは、ヒートしちゃって最後、どう終わらせようか、迷っているところなどが面白かったなぁ。ロックやラップの部分は…。ま、どちらにせよ、歌唱力とエンタテーメントの力はある人ということは分かりました。

99.3.13.
Florida: The 27th Star. The National Society of The Colonial Dames of American in The State of Florida.(ビデオ)
子供向けのフロリダ史。図書館員が持ってきたCD-ROMを使いながら、子供が楽しくフロリダの歴史を勉強するという設定。う〜ん、子供だましだなぁ。NHK教育以上にわざとらしいぞ。白人中心史観から抜け出そうとしているけど、やっぱり完全ではない。独特な「古き良き時代」を思い起こさせるノスタルジアがあるなぁ。このビデオ1995年制作だけど、「インディアン」って言ってるね。黒人奴隷の扱い方も、オブラートにつつんであるし。音楽がカントリーぽいのも、どうも抵抗が。

全曲集 明治・大正の唄(上・下)日本コロムビア COCF-11335, 11336.(CD)
モノラル録音ということで、てっきりオリジナルだと思っていたのに、実際はほとんどが1950年くらいの録音みたいだ(データが何も書いていないのは、極めて不親切)。それでも堀内敬三の『明治音楽百年史』とかにでてくる歌もいくつかあって、参考にはなった。<のんき節>は、タイトンのCDに入っている方がオリジナルなんだろうな。あれの方がずっと音楽が生き生きしてる。セリフみたいのも入っているし。やっぱりオリジナルが聴きたいなぁ。

VH1 Behind the Musicマラソン(テレビ)
The Whoのドラマーの話、やってました。なかなか奇妙な人だったんですね。ギター壊すってのも、何もモンテレーが初じゃないみたいで。しかしアメリカツアーの最後のテレビ番組で、ドラムに爆薬仕掛けたのはすごかったなぁ。もうマジでぶっ飛んでましたよ。あれ。前のギターの人が難聴になったとか、いってましたけど、う〜ん。『ロック決定盤』ていうOn Books読んでたら、日本では、このグループ、評価低いんですか。やっぱりこういうパフォーマンスが目立ち過ぎたんですかね?

99.3.18.
Weber, Carl Maria von. Konzertstuck in F Minor. Christpher Kite, piano; The Honover Band; Roy Goodman, director. Nimbus NI 5291 [CD].
グラウトに掲載されていた曲(595)。ピリオド楽器による演奏。オーケストラシャープな切り込み方が鮮やか。ピアノの音域の広いところや派手なテクニックはベートーヴェン譲りか。オケの響きはやや地味だ。何かフランス革命歌的なリズムの伴奏もあるけれど、これは何だろう。しかしグラウト、もうちょっと詳しい説明が欲しいぞ。後半の転調の仕方なんかもちょっとべートーヴェン入ってますね。ピアノ曲の和音を使った音型は面白い。

ドビュッシー<版画>、<ピアノのために> ミシェル・ベロフ(ピアノ)東芝EMI TOCE-8682(CD)
パスカル・ロジェのぼんやりとしてくすんだ音に慣れてしまうと、ベロフのはかなりくっきりと線がはっきりしているように聞こえる。ロジェも悪くないのだが、ああいう風には演奏しにくい(僕のテクだと、さらにダメ)。ベロフのは曲の構造もしっかりとらえられているようだし、作品の楽しさも伝わってくる。引き際も見事だ。思わず息を飲む展開の<ピアノのために>はもっと凄い。Prudermacherのは、ここまでパンチがないんだなぁ。曲目解説はちょっといまいち。それにしても、どうして、ドビュッシーはこんなに面白い和音が次々と頭に浮かんだんだろう。

ジョスカン・デ・プレ、La Spagna(リハーサル)
英語でリハーサルというと、すべての合同練習が含まれるようだ。本番前のリハーサルは、ドレス・リハーサルという。ことしのルネサンス・アンサンブルは、ヨーロッパのヒット曲集というテーマらしい。ジョスカンのも、流行りのスペイン風舞曲という訳か。すっかり僕もバス・リコーダー奏者のようになってしまったが、自分でも気にいっている。以前はソプラノでソロみたいのもやったが、目立ってしまったこともあったからか、今は下吹きに徹しているけど、下は下なりに、やっぱりそれなりに吹く(というか、リコーダーって強弱の無い楽器だから)と、結構面白いメロディーがあってよい。しかし、今日、時間の半分は、ロブの春休みキー・ウェストに行ってきた話と、なぜかごきぶりの話になってしまった。「ねぇ、ごきぶりって飛ぶって知ってた?」とか。ま、うちらのグループってこういうきさくな雰囲気がいいんだけどね。以前はジェズアルドばりの半音階バリバリの曲もやったけど、今セメはちょっと楽。となりの教室ではガンバ合奏のリハをやっている。う〜んしかし大所帯だ。8人はいたような。でも響きが妙に19世紀っぽいんだな。なんかもっさりした響きだ。アカデミー室内管弦楽団というか。

Franck, Cesar. Works for Piano. Joerg Demus, piano. The Musical Heritage Society MHS 1152 (Rec. by Angelicum, Italy) [LP].
フランクのピアノ作品は何度か聴こうとトライしているのだが、どうしてもBGM的な聴き方になってしまう。どうしてだろう。分からない。やっぱコルトーの本でも読んで、勉強しないとだめかな?

Druckman, Jacob. Lamia. Jan de Gaetani, mezzo-soprano; Louisiville Orchestra; Jorge Mester, conductor; Daniel Spurlock, assistant conductor. Lousville Orchestra First Edition Records LS-764 [LP].
ラテン語、フランス語、マレー語、イタリア語、ドイツ語と、多言語のテキストによる歌曲。デガエタニの歌唱は素晴しい。オケの反応も割と良いと思った。ドラッグマンはダイナミックに音をうまく使いこなすテクニックをもっているけれど、音色が嫌いという人もいるかもしれない。無調なんだけど、カヴァッリの<ジアゾーネ>の引用がある。カヴァッリは印象的に始まるんだけど、戻るあたりは、ちょっと繋ぎが下手くそ。趣味が悪いのか良いのか、意見が分かれそう。最後は、え、これで終わり? って感じ。

99.3.20.
Bach, Johann Sebastian. Christmas Oratorio. RIAS-Kammerchor; Akademir fur Alte Musik, Berlin; Rene Jacobs, conductor. Harmonia Mundi France 901630.31 [CD].
冒頭からの力強い響きに圧倒され、何をおいても聴かねばならないと思わせてしまう驚くべき演奏。かと思うと、他の大部分が持つ作品の持つリリカルな側面も実に丁寧だ。歌詞の内容を詳細に知らずとも、楽しめるだろう。今日は「1日目の曲」だけでおしまい。

Rainbow Concert. Ruby Diamond Auditorium, The Florida State University. 8pm.(ライヴ)
すっかり恒例となった民族音楽コンサート。今学期も、多様な音楽がステージ乗り、満員の聴衆を楽しませた。思わず体が動いてしまうような熱のこもった音楽ばかりで、こういうコンサートが日本の大学でもあるといいな、と思った。

最初はバリ島のケチャを演奏するグループによる「ケチャ」の披露。このケチャ、本物とはあまり関係がなく、音楽自体も怪しいのだが、エッセンスはあるのかもしれない。つまり、いくつかのリズム型が重なりあって、一人の人間ならばとてもだすことのできない小刻みなリズムが立ち現われというカラクリがある、ということだ。体の動きは、ラーマヤーナの物語にもとづく儀式的なものではなく、前衛パフォーマンスの様相を呈している。特に決まった型があるというより、指導者のマイケル・バカン博士と学生が、半ば即興的に作り上げたものだと思う。

続いては、ブルース研究室による、ヴォーカル・ナンバー。印象的だったのは、ハリのある黒人の歌手が歌ったSuperstitions。ややPAのバランスが悪かったのか、ヴォーカルがもぐりがちだったが、歌唱の良さは充分伝わってきたと思う。その他は、コーラスのついたナンバーもあったが、ややパワー不足であったかもしれない。

次はゴスペル・コーラス。バラード調の楽曲から、体を左右に振りながら盛り上がる曲まで、テンポを徐々に上げていく構成。ベル・カント的な歌唱法から見ると、喉声のように聞こえるが、これが本来の歌い方なのだろうか、残念ながら無知にして分からない。しかし、ルビー・ダイアモンド公会堂の大きさにしては、PAを使用しても、やや力量不足だったようだ。特に最後の曲では、ソロのソプラノが即興的にオブリガートを入れていくゴスペルらしい箇所もあったのだが、やはり映える演出にはならなかった。

次のアンデス音楽のグループは、長いあいだ続いていて、すっかりおなじみ。ギターと太鼓のシンプルな伴奏の上に、ケーナというフルートが郷愁の旋律を歌い上げる。あんなに闊達(かったつ)なリズムなのに、どこかしら悲しい響きのするのが魅力なのだが、それでいて割とドライな力強さがある。このグループ、コンサートの後半では再び現われてパンパイプの演奏も行ったが、楽しく演奏している雰囲気が伝わってきたのは良かったと思う。

それに続いてのアフリカン・ダンスは、ここ数年間エキサイティングなステージを見せているが、今回も体全体にリズムを感ずるすごみのあるドラムのリズムに合わせて、激しい振り付けによるダンスが披露された。全身がバネになったような踊による力強い身体表現は、否応なしに聴衆を興奮の渦に巻き込んだ。

一つのリズム・パターンの執拗な繰り返し、振り付けを数人で繰り返していくだけの、一見単純なパフォーマンスなのだが、これだけの鼓動を感じさせられると、ちっとも飽きることがない。

次は、バリ島のガムランによる、新曲の披露。指導者のマイケル・バカン博士のよる創作は、前回の尺八との共演に続いて2作目。今回は本人が得意としているドラム・セットを操りながらのソロと学生によるガムラン・オーケストラとのバトルロイヤル。といっても、生徒が集団で演奏するガムランは、反復する音型を繰り返すだけ。一方でドラム・セットは思う通りにやりたいことを見せびらかす。これは決してフェアなバトルではない。終始ドラムが前面で出るきらいがあり、ガムランの音色のついたドラム・ソロになってしまった。しかも、ドラムスはヴィルトーゾ呈示のために五連符などの難しい音型を多用。ドラムを叩く「先生」の一人芝居に見えてしまった。しかし、切迫感のあるドラム・ソロは聴衆を釘付けし、常に注目の的になっていたことは間違いない。

この後に続いたサルサ・フロリダは、純粋なサルサだけではなく、ラテン系の楽器を含んだ、より多彩な音楽をやっているような感じであったが、リズム・セッションにややメリハリがなく、金管楽器に押され気味になっていたのが残念。しかし、後半は次第にこなれていき、楽しめた。

最後は、これもすっかりおなじみのスチール・バンドによる鮮やかなステージ。素早いパッセージは複数のスチール・ドラムによって奏され、数人が一本の旋律線を担当することになっている。そこでは旋律線をスムーズにつなぐため、絶妙なタイミングが要求される。しかし今回は、2台のスチール・ドラムを扱うゲスト・アーチストが、主旋律を即興的に味付けた。このゲストはオクターヴの半音階をすべて自由に弾きこなす名人芸を披露し、会場を圧巻した。彼一人によるソロ曲も見事で、スタンディング・オヴェイションとなった。

今回は、チケットのもぎりとして、無料でコンサートを拝見さえていただいた訳でが、これだけの催し物ならば、10ドル位払ってもいいだろうと思う。それぞれのグループは、まもなく、それぞれ独自にコンサートを開くようだが、いまからそれらが楽しみになってくる。(記述日99.3.23.、アップロード日99.3.27)


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