音楽雑記帳(5)



アメリカにおける日本の音楽の受容:個人的印象



 筆者の現在通うフロリダ 州立大学には、「日本の音 楽」という授業がある。将 来自分の役に立つだろうと 思い、聴講してみた。先生 は尺八の名取(なとり)だ が、れっきとしたアメリカ 人で日本語は話さない。10 人強の学生のうち筆者と韓 国人の一人以外はみなアメ リカ人だった。そんな中で、 日本の音楽を外国の目から 知るという貴重な体験をし た。

 日本でいくらか伝統音楽 を学んだことがあったが、 アメリカの捉え方はより視 野が広かった。例えば最近 の考古学研究の成果を生か した縄文・弥生・古墳時代 の音楽再現の試みは、あま り日本の授業で扱われるこ とがないものだと思ったし、 先生の専門が南米の原住民 族の音楽ということもあっ てか、アイヌ音楽について の講義が4回にもわたって 行われたのも印象に残った。 代表的な熊送りの儀式「イ ヨマンテ」や古式舞踊紹介 のビデオなどが、丁寧な解 説とともに放映された。多 くのアメリカ人にとってア イヌの音楽は未知のもので あり、インパクトも強かっ た。筆者もアイヌ音楽につ いては体系的に学習したこ とがなく、今後の研究への 刺激となった。その他、沖 縄や本土の民謡についても 概説があった。

 一方まだアメリカには知 られていない日本の伝統芸 能がまだ数多くある。いわ ゆる芸術音楽に焦点が集ま りがちなアメリカの日本音 楽研究では、盆踊りや祭り の神楽といった民俗音楽は あまり知られておらず、筆 者が急遽(きゅうきょ)獅 子舞の解説をしなければな らなくなった時もあった。

 言葉が障壁となることが あり、琵琶楽や三味線の 「語りもの」と呼ばれる分 野は、筆者の持参したビデ オで初めて紹介されるとい う有様であった。しかし歌 詞に頼らずとも、楽器の奏 法や劇的歌唱法への関心は 高かったようで、もっと紹 介されてよいジャンルだと 思った。



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