音楽雑記帳(28)



テレビ漫画「ジャングル大帝」の音楽について



昭和40年代前半、フジテレビで放映された「ジャングル大帝」のテーマソングは冨田勲作曲によるものだった。これには2種類あって、まずはヴォカリーズで歌詞なし、そして歌詞の入ったもの。記憶に間違いがなければ、歌詞はあとで加えられたはずだ。なるほど、アニメソングに歌なしというのは、当時は珍しく、やや近寄りがたかったのだろうか。

しかし、私はスキャット版も好きなのである。理由は、中間部(伴奏のリズム型が変わるので、分かるだろう)。ここでトランペットとスキャットがオクターブ離れて同じ旋律を歌い上げるところが何ともいい味になっているからだ。おそらくトランペットの響きが、アフリカの、何ともいえない暑さを表現しているように感じられ、それが効果的にでているに違いない。もちろんイントロでも、その音色は存分に聴かれるのだが(オクターブを駆け登るパッセージは見事だ)、歌の入った版では、この中間部のトランペットが後方に追いやられてしまう。おそらく歌(とその歌詞)が邪魔されないようにとの配慮だと思うのだが、やや「暑さ」が和らいでしまうように感じられるのだ(注1、2、3)。

それにしても、バリトンによるスキャット、女声合唱、トランペット、ホルン、フルート、弦楽合奏、ピアノ、ボンゴ、コンガ、マラカスというのは変わった編成だ(シンバルも主部に戻る時に効果的に使われているが)。このうち、本当に本物のアフリカ音楽に属している楽器が少ないのも興味深い。例えば「ジャングル大帝」におそらく取材したと思われるディズニーの「ライオン・キング」は、もうこれでもか、というほど、(おそらく西洋から持ち込まれた近代の)アフリカの、独特のアクセントをもったコーラスをフィーチャーしている。

でも、私が「ジャングル大帝」を見たとき、この冨田の音楽の「アフリカ性」に疑問を持ったとは思えない。いや、この時代なら、典型的アフリカン・サウンドの一つの見られてもよいのではないかと思えるほどだ。一つは先ほど述べた、暑いトランペット、雄叫びを象徴するホルン。おそらくラテン系の打楽器も、われわれのイメージ上では「アフリカ太鼓」だったのかもしれない。

映画「世界残酷物語」だったかに《モア》という曲があったと思うのだが、あれも、ラテン系の打楽器を使ってアレンジした演奏を聴いたことがある。そこに聴くのは、南米ではなく、アフリカなのだ。あるいは、南米の「暑さ」のイメージをもって、アフリカを感じていたのだろうか。不思議なところだ。

いや、もっと不思議なのは、スキャットや女声合唱かもしれない。スキャットなど、その旋律を弦楽合奏で演奏すれば、おそらくそのサウンドはアフリカというよりは、典型的アジアではないかと思われるからだ。五音音階を使っているのが、その理由なのかもしれない。しかし、そのアジアにしても、感じるのは、広い母のような大地のイメージだと思う。おそらく、その大地のイメージが「アフリカの大地」というイメージと重なるに違いない。

では冒頭のティンバニーは? グロッケンの上行下行は? これに対する答えは、明確には出せないが、おそらく明確なリファレンスではなく、劇的効果の方が高いのではないかと思う。もしも映像を見て音楽が使われたということであれば、ちょうど滝の流れる場面、番組のタイトルと同時にグロッケンが出るので、その辺りにヒントがあるのかもしれない。じゃあ、女声合唱は? ピアノは? ベル・カント唱法は???

ところで、フジテレビの「ジャングル大帝」には、第2シリーズとして「進めレオ」というのもある。「吠えろジャングルで、レオ、レオ、レオ〜」と始まるこの歌の方をご記憶の方も、あるいは多いのではないかと考えているのだが、こちらは、オリジナルは冨田ではなく、CMソングで有名な三木鶏郎のもので、さらに冨田が編曲したものだ。

三木鶏郎のこの有名な歌は、実は冨田が編曲する前に、第1シリーズ放映中、コマーシャル・タイムにも使われていたそうだ。その原曲は、この時代のアニメソングらしいベンチャーズ風のエレキの入ったアレンジなのだが、どうやら番組提供の三洋電機が作曲を依頼したのか、最後に「三洋〜、三洋〜、三洋〜電機」という文句が入る。冨田の音楽が、かなり大人っぽい音楽なので、子ども向けの「テレビまんが」にとっては、こういった分かりやすい音楽がウケたのかもしれない。

しかし、冨田の編曲には、この三木鶏郎の歌に入る前に、ファンファーレと、叙情的なイントロがついている。私はここに、冨田が前作の気高いテーマソングの雰囲気を残したかったという願いが感じられて仕方がない。冒頭の暑いトランペット、ドラマティックな太鼓のティンパニー、混声合唱、弦楽器、吠えるホルンなど、かつてのテーマ音楽の要素を盛り込んでいる。ラテン系の楽器がなくなったのは、鶏郎ソングの性格ゆえ、仕方ないのだろう(なぜか鈴が付け加えられているが)。

もちろん「三洋電機」も最後に入っているが、最後もなかなか堂々としたファンファーレになっていて、冨田のアレンジャーとしての腕が感じられる。再放送の場合は、やはり三洋電機がスポンサーでないので、この部分を聴くことができないので、非常に残念である。幸い今は番組で使われたテープ(ひどく傷んでいるが)をそのままCDにしたものが入手できるので、うれしい限りだ(注4)。

音楽としては、第1シリーズは、芸術性に重きを置いたもの、第2シリーズは、親しみやすさを考慮に入れながらも、オリジナルにあった気品を保つような道を探索したものと考えている。もちろん音楽的に冨田オリジナルが秀でているのは確かなのだが、後者の社会的な影響力・浸透力の強さを無視することができない。アニメ音楽の難しさがここにあるような気がする。2001年2月11日第1稿、2001.2.27. 改訂、2001.3.3. 改訂、2002.10.2. 改訂、2004.7.26. 訂正


(1)「アニメディア」というサイトで、第1話のオープニングを聴いて、この記述に問題があることが分かった。というのも、肝心の中間部にトランペットが全く出てこないからだ。とすると、もともとこの部分は声楽だけで通すというのがオリジナルの意図だったのだろうか、と思うのである。このバージョンは、気のせいか、ややテンポも速く聞こえる。別の録音なのだろうか?

(2)歌版で面白いのは、歌詞のないところが残っていて、ここにはかなり強いエコーがきかされている。歌詞の「こだま」を意識してのことだろうか? スキャットの方にもかなりエコーがかかっている。

(3)日本テレビの「ルパン三世」は歌なしバージョンの方が有名だ。まあ、もともと音域の広い旋律だから、あれを歌った歌手は素晴しいと思う。なにしろ、ハイCまであるのだから(歌詞がちょっとクサかったかな)。そういえば、第1版の「ルパン」(チャーリー・コーセー)も、歌詞があってないようなもんか。その他思いつくのは宮崎アニメの「ラピュタ」も、冒頭はインストのみだ。

(4)冨田編曲の冒頭のティンバニーと弦楽合奏の和音は、ニュース番組のテーマ音楽をイメージさせる。



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