音楽雑記帳(21)



アメリカ音楽の先生との雑談
1998年9月27日



今日は私の学校に今学期赴任されたアメリカ音楽専門の先生とお話しする機会がありました。デニース・ヴァン・グラーン先生は、私の興味のある分野の専門家として、これからお世話になる方で、ワシントン大学のご出身。アイヴズを長年に渡って研究していらっしゃいます。

私の自己紹介がてら、アメリカ音楽の話も若干しました。何でもヴァン・グラーン先生は現在アメリカの風景にまつわる音楽についての本をご執筆だそうで、グローフェやアイヴズの作品と風景・文化の文脈との関連にご興味がおありだそうです。例えばアイヴズの<ニューイングランドの3つの風景>の題材となっているボストン・コモンを訪ねると、その風景から自然にアイヴズ作品の音が耳に鳴ってくるそうです。私は「グランド・キャニオンはどうですか?」と質問しました。

ヴァン・グラーン先生は、<グランド・キャニオン組曲>は、それほど聴き込んでいないので、風景を見て音が耳に聞こえるということはなかったとおっしゃりました。実は、グランド・キャニオンに<グランド・キャニオン組曲>のCDが売っているのかどうかも尋ねてみたのですが、「売っているのは見たことがない、というか、グランド・キャニオンでそういうところに注目したことがない」ということでした。私はアメリカ人がグローフェ作品をどのように捉えているか興味があったので、この質問をしたのですが、答えが得られなくて、ちょっと残念でした。

グローフェの評価は、少なくともアカデミアの間では芳(かん)ばしくないようです。それは、ヴァン・グラーン先生に言わせれば、ポピュラーになってしまうとアカデミアからは見下されるという、妙な現象があり、それは好ましくないのだ、ということでした。大衆小説などについても同じことが言えますね。

特に<グランド・キャニオン組曲>の中で特に有名な楽章<<山道を行く>>のテーマなどは、アメリカ西部劇にも盛んに引用され、急速にクリシェになったそうです。人々がグローフェに興味を抱かない理由も、そういうところにあるかもしれません。私は、「グローフェの評価は、グローフェの音楽自体の問題ではなく、グローフェ以外の人々にありそうですね」と申し挙げたのですが、それには賛同して下さいました。

自己紹介の過程で、私は実験音楽にも興味を持っていることを話しました。すると、来月ジョン・ケージの<プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード>を実演される方が来ると教えてくれました。なんと4時間かけてプリペアするそうなのですが、その過程を是非一度見てみたいと思っていたので、楽しみです。私はどのようにして一人のピアニストがプリペアド・ピアノの音を自分独自のものとして確立していくのかに興味がありまして、「他人の演奏を聴いて、プリパレーションが変わることはないか」という質問をヴァン・グラーン先生にしたのですが、先生もどうやらご存じないようで、来月、このピアニストに聞いてみたい質問であるとおっしゃっていました。

最後に、アイヴズの専門家ということで、アイヴズの発音について尋ねてみました。アイヴスかアイヴズか、という質問です。「所有格にするとアイヴジーズになるし、アイヴスではないわね」とおっしゃっておりました。どうやら先生はアイヴ「ズ」派のようです。



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