音楽雑記帳(20)



作曲家たちの現代社会(fj*上での対談より)
1998年9月27日アップロード



議論は、現代音楽と調性についてという文脈でした。どうして現代の作曲家は調性で書けないのか、過去に無頓着になって調性音楽の可能性を探ればいいじゃないか、という対談相手の発言(引用符)に始まります。

From: Akihiro Taniguchi 
Subject: A Composer and His/Her Age (Long)
Newsgroups: fj.rec.music.classical
Date: 5 May 1995 01:27:27 +0100

>現代で「調性音楽」を書く一つの方法は、こういう無頓着さを身に >つけることです。「現代的意味を持った調性音楽」も新しい個がこ >ういう態度で臨めば、嫌でも少なくとも「今までにない」音楽には >なるでしょう。作曲科の学生の宿題に、そういうのは転がっている >かも知れませんが、

友達に何人か作曲科がいましたが、彼らの場合、どちらかといえばクラシックの 伝統から入ってくるため、どうしても過去との断絶ははかりにくいと思います。

>一人立ちすると、アイデンティティと時代との関連性を求めずには >不安になるのでしょう。

そこまでいければ既に立派な作曲家で、大体はみんな成功できずに苦労をしていま す。「どんな曲でも一発当てたい。でもできれば芸術音楽の路線からは、離れたく ない」というのが、多分彼らの現状だと思います。

>彼らは、自分で納得するものは書けているという自覚はあって、 >業界の中で成功していないのを、苦しんでいるのですか。それとも、 >自分では満足いかなくても、まず成功を手に入れたいのでしょうか。

僕の友達の例でお答えします。

大学院レベルまでいっている作曲科は、世間で演奏されている現代音楽のレベルが 分かるみたいで、自分の作品がどのくらいのものかも分かっているような気がしま す。だから「なんであんな作品が売れるんだろう」と思っているように見受けられ ます。実際のところ日本の場合は、いかに有名な先生のもので勉強したか、という だけでかなり決まってしまうところがあって、才能だけでなく、政治的な側面から 苦しむということもあるようです。

>なるほど、それは嫌なことですね。

作曲家として名を上げるために、たいていはみんなコンクールに応募しますが、1 位になる曲が、一番音楽的に高いとは限らないということもあるそうです。僕の友 達で、神奈川の合唱曲かなにかに応募したのがいて、楽譜審査をパスして試演の段 階までいったのがいました。フランス系の響きを持った叙情的な作品でしたが、1 位になったのはもっと「典型的な」合唱曲だったようです(わかります?)。

最終的には審査員の好み(作曲家や評論家たち)で決まってしまいのではないでし ょうか。

> なんとなく分かります。でも、全くの理想論ですが、作品を一律に並べ >ようとするコンクールの存在の意義にも問題がありますね。その中で、そ >れ流の作品が賞を取るのは仕方ないかも知れません。10人の審査員の合計 >点が一番高い作品を、一番気に入る審査員は、きっといないでしょう。そ >れとも、コンクールはそれほど「個性」の火花の散る舞台ではないですか。

これは国際コンピュータ音楽会議の審査にお手伝いとして出席しての感想ですが、 やっぱり審査員の耳を捉えたものは受けいれられると思います。200程の応募の中 に、一つベートーヴェン第7の第2楽章を延々と引用した作品があり、それが異様 なほどに光っていたのを思い出します。

そこでの評価基準は、1.最新のテクノロジーを生かしている作品であるか、2.音楽 的に優れているか、という2つが柱となっていたような気がします。

#「前衛が終わった」てのは幻想に過ぎない、というのがその審査での作品群を聴 #いた感想です。

自分で満足した作品が書けたと思っている作曲家はほとんどいないような気がしま す。僕の友達は作曲した自分の曲を聴いてくれ、とよくいって来ました。作曲家は みんな過剰なほど人の評判に敏感なような気がします。

>それはそうでしょう。誰だって人に認めてもらいたいですからね。

良心的な作曲家なら、完璧な作品ではないけれどなんとか認めてもらいないだろう か、と思っているような気がします。

彼らもレベルを落として(クラシックとして)ウケる作品が書けるのかもしれませ んが、やっぱり一つの型にはめられるのがいやか、そういう作品が生理的に受け付 けられなくて、最終的には違ったタイプの作品を書いてしまう、ってことかな?

>そこで、認めてもらいたいからといって自分を偽ってしまっては、結局 >認められたとしてもそれは自分ではないというジレンマですね。

その通りだと思います。



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