音楽雑記帳(18)



独立記念日とアメリカ音楽
(98.7.7.)



映画『インディペンデンス・デイ』で、すっかり有名になったアメリカの独立記念日ですが、やはりこの日はあくまでもアメリカの記念日だというのが本当のところで、日本でも映画がなかったら、それほど気にする人もいなかったのではないでしょうか。しかも、イギリスから独立したということですから、イギリス人にとっては、それほどうれしい日でもないのでは、と邪推しています。

しかも、ここぞとばかり、愛国主義的な音楽がラジオやテレビ、はたまた全米のあちこちで行われる独立記念日の式典で聴かれたり歌われたりで、全然国際色豊かな祝日ではありませんね。

毎年ラジオでは、この時期になると、決まってアメリカ音楽が流れるようになるのですが、今年はNPR(アメリカの公共ラジオ放送)が、興味深い番組を放送したので、それについて、まずはご紹介しましょう。

まず7月2日には1990年代の終わりから40年代前半、レオポルド・ストコフスキーがアメリカン・ユース・オーケストラと行ったツアーと当時の録音が放送されました。ストコフスキーは、第二次世界大戦中のことなのですが、全米から音楽的才能のある若い演奏家をあつめ、オーケストラでの演奏を経験させようと、若者だけのオーケストラを組織し、ツアーしたのでした。この番組では、ストコフスキーとともにあちこちを旅した音楽家たちが、当時を振り返り、ストコフスキーの偉業を偲ぶというものでした。

反応として面白かったのは、ストコフスキーは父親のようであり、ユーモアである人だったということ。もう一つは、時にストコフスキーは気難しい人間だったということでしょうか。後者の例としては、南米のある都市で演奏会をした時のこと。ちょうどある曲の冒頭を演奏しているときに、路面電車の音が聞こえたらしいのです。ストコフスキーは指揮棒を止めて、この音は消されなければならない、と会場に向かって言ったそうです。同席していた中にお役人がいたらしく、さっそくこれを受け入れ、演奏会の間、路面電車はストップしたそうです。

アメリカ音楽という点で面白かったのは、実験音楽の作曲家ヘンリー・カウエルと、ユース・オーケストラが共演したことでしょうか。カウエルが自作のピアノ作品から4曲を選び、オーケストラと友に演奏できるようにしたものだったようです。オーケストラの団員にとって、カウエルの作品はかなりの驚きだったようで、ある楽団員は、カウエルが肘(ひじ)を使ってピアノを演奏するのが忘れられなかったと言ってました。おそらくこのオーケストラの演奏した一番モダンな作品だったのでしょう。

残念ながら、アメリカ音楽として放送されたのはこのカウエル作品(とモートン・グールドの一作品からの抜粋)だけで、その他はすべてヨーロッパの作品でした。なお、この日の番組で使われた録音は、すべてストコフスキー協会からCDとして発売されているようです。

次の日、7月3日のPerformance Todayというレギュラー番組では、番組の後半がコープランド一色になりました。この番組の組み方としては、あまりないものです。内容は、「アメリカ・クラシック音楽の殿堂」(音楽雑記帳16参照)入りのアメリカ海軍軍楽隊による、<市民のためのファンファーレ>、そしてそのファンファーレが最終楽章に使われた交響曲第3番でした。後者はノース・キャロライナの音楽祭からの演奏でしたが、改めて聴くと、それほど悪い曲でもないな、と思いました。演奏がテキパキと進み、凡調にならなかったので聴き通せたのかもしれません。

同日の6時からは、今年生誕100年を迎えるロイ・ハリスの番組が1時間にわたって放送されました。作品として流れたのは第3・第4・第6交響曲が中心で、すべてCDから放送されただけだったので、ちょっとがっかりしたのですが、それでもハリスのインタビュー、妻や娘のコメントが流れたり、その他弟子だったピーター・シックリー(P. D. Q. バッハの創始者?!)やキース・クラークがハリスの人物や作品について話したりと、なかなか楽しめる内容でした。

面白かったのは、ハリスが戦後の世代、特に1960年代にまったくついていけなかったという娘のコメントでした。それによりますと、ハリスは評論家ニコラス・スロニムスキーと食事をすることがあり、そこでスロニムスキーが「ビートルズこそが20世紀音楽に最大の貢献をした」と言ったのでした。ハリスは12音技法の作曲家などを挙げて反論したそうですが、話はまったくかみ合わず、最後にはハリスはテーブルにあった豆のスープをスロニムスキーに投げつけ、それ以降、この評論家とは一切口をきかなくなったということです。

ハリスがジャズさえもアメリカ音楽の一部として認めなかったということは知られていますが、商業音楽は本当に嫌いだったようです。まぁその頑固さにしてあの音楽ということなのでしょうか。

4日の記念日では、なんといってもPops Goes the Fourthでしょうか(A&Eテレビによるライブ放送)。これはボストンのチャールズ川沿いにあるマッチ・メモリアル・ホール(俗にはステージの形から「シェル」と言われるようです)にて行われるボストン・ポップスのコンサートなのです。これはアーサー・フィードラーの頃からの伝統的な行事で、コンサートは、必ずチャイコフスキーの序曲<1812年>で終わることになっているというものです。これは25年前、ミューガーという人がフィードラーに提案したもので、本物の大砲や教会の鐘、花火を使ってコンサートを盛り上げるという企画でした。ミューガーの目論見(もくろみ)は大成功に終わり、ボストン以外で行われる独立記念日のコンサートでも、<1812年>が使われるようになりました。実際同日PBS(公共テレビ放送)でも、エリック・カンゼルがナショナル交響楽団を演奏したコンサートが放送され、同曲が使われたようです。

ボストン交響楽団のは、アメリカ軍の協力を得て、軍服を着た兵士が空砲をうつのですが、なぜかスコア通りのリズムにならず、結構バラバラなんです。カンゼルがやっている方も、多分軍が協力していると思うのですが、こちらは、リズム通りきっちり出るんです。でもボストンみたいにズレてる方が、なんとなくホンモノっぽく聞こえてしまうので、不思議です。ボストンのコンサートの方は、このほか、ハリス同様生誕100年を迎えたガーシュインの音楽やミュージカル<ラグタイム>の抜粋、バックウィート・ザイダコ(ルイジアナ州の黒人音楽)のエキサイティングなステージと、盛りだくさんな内容でした。キース・ロックハートの若々しくシャープな音楽も、聴き応えがありました。

ということで、お祭り騒ぎの好きなアメリカ人らしく、独立記念日は花火もありで、大変楽しかったです。ただし私の住むフロリダ州では、例の山火事で、花火の販売が禁止されてしまいました。私のみた花火は、したがって、小さなテレビ画面に現われたボストンの花火でした。でも、やっぱり花火は本物をみないと実感が湧きませんね〜。

日本の建国記念日って、どんな音楽番組があるんでしょうね?(04.6.25. 訂正)



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