サード・ストリーム (Third Stream) の音楽


『ジャズ・シンポジウム』音楽集 (Music from the JAZZ SYMPOSIUM)
ウィリアム・テッソン (William Tesson) 指揮ニュー・イングランド音楽院ポピュラー音楽学部オーケストラ (Orchestra of the New England Conservatory Pop. Dept.)、ローランド・ナドー Roland Nadeau (ピアノ)

F-JS-I、F-JS-II

Music from The Jazz Symposium

フィル・ウィルソン (Phil Wilson):《タイム・アウト・フォー・アル (Time Out for Al)》、ウィリアム・テッソン (William Tesson):《アフター・ミッドナイト (After Midnight)》、ポール・ゲイ (Paul Gay)《ボストンの北 (North of Boston)》、G・セーガー (G. Saeger):《ケープ・コッド・コンチェルティーノ (Cape Cod Concertino)》、ウィルソン《夏の2つのムード Two Moods of Summer》、ジョン・グラース (John Graas):《ディベロップメント (Development)》、J・J・ジョンソン (J. J. Johnson):《ポエム・フォー・ブラス Poem for Brass》

1958年4月21日、ニュー・イングランド音楽院のジョーダン・ホールで行われたコンサートの実況録音記録。オークション・サイトにて入手。Stephen B. Fassettによる録音だそうだ。モノラル録音で、拍手も入っている。

ガンサー・シュラーが音楽院長として赴任する前の、ニュー・イングランド音楽院のジャズの演奏記録としては貴重かもしれない。しかも内容的に、彼の提唱した「サード・ストリーム」の概念を先取りするような内容の音楽も収録されているのが極めて興味深い。

収録されている曲の最初の《タイム・アウト・フォー・アル》こそビッグ・バンドっぽいオープニング・ナンバーだが(ジャズは詳しくないのだが、カウント・ベイシー的な感じがする)、その後のテッソン(ポピュラー音楽学部の指揮者)の曲は、スローな部分を間に挟んだ、いくつかの部分からなる曲だし、セーガーの《ケープ・コッド・コンチェルティーノ》は、一応3つの楽章からなるピアノ小協奏曲という体裁になっている (レコードは第1楽章のみ1面、残りは2面の冒頭に続いている)。楽譜を見たわけではないので聴いた音だけで判断すると、全体は休みなしで演奏される急緩急の3つの楽章からなる曲で、最後の楽章にはハモンド・オルガンらしき音も聴こえてくる。基本ビッグ・バンド編成で弦楽器は入っていないが、サキソフォンは入っている。クラシック的な要素とジャズの融合という点では、やはりサード・ストリーム的な作品と考えてもよいのではないだろうか。ちなみに独奏を担当しているローランド・ナドーはNECで音楽理論で教鞭を執りつつピアニストとしても活躍している音楽家だ。

ただ注目に値するのは、やはり最後に収録されたJ・J・ジョンソンの《ポエム・フォー・ブラス》だろう。この作品は「サード・ストリーム作品」を集めたアルバムとして今日知られている『ミュージック・フォー・ブラス Music for Brass』(Columbia CL-941) に収録されており、そちらの方ではガンサー・シュラーがニューヨークで集めたミュージシャンたちによって演奏されている 。NECの「ジャズ・シンポジウム」が行われたのは、この作品のスタジオ録音が行われた1956年10月23日から1年半しか経ていないこと(MJQ Musicによる出版譜の著作権は1961年)、この曲だけは作曲者のJ. J. ジョンソンによって指揮がなされた可能性があることから 、シュラーが院長に就任する以前から、ニュー・イングランド音楽院においては、ジャズを芸術音楽として捉える動きがあったことは考えてよいのではないだろうか。

なお、このLPレコードには、NEC図書館所蔵のCDに収録された曲目のすべては収められていない。William Tesson作品のうち Song of Joy とLament が省略されている。また「ジャズ・シンポジウム」のコンサートに先立って、Father Norman J. O'Connorが「芸術してのジャズ Jazz as an Art Form」というスピーチを行っており、一通り曲が演奏された後には、当日楽曲についての議論も行われた。それらについてはニュー・イングランド音楽院に所蔵されたCDに収録されているようだ。

なお、このレコードの内容とニュー・イングランド音楽院における「サード・ストリーム」については、筆者がフェリス女学院大学の紀要論文おいても言及しているので、ご参照いただきたい。(2023-05-13執筆)


サード・ストリームの現在 (Third Stream Today)

Golden Crest… (この項目執筆中)



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