ガンサー・シュラー (Gunther Schuller, 1925-2015) の音楽


パウル・クレーの主題による7つの習作 (1959)
アンタル・ドラティ指揮ミネアポリス交響楽団

Mercury 434 329-2

カップリング:ブロッホの<短い交響曲>、コープランドの<ロデオ>(4つのエピソード)、ガーシュインの<パリのアメリカ人>
Naxos Music Library (シュラー作品音源) →http://ml.naxos.jp/work/2847972
YouTube (シュラー作品音源)

シュラーの作品というと、戦後の現代音楽の流れ(第1の流れ)とモダン・ジャズ(第2の流れ)の語法を併置・融合させた作品群が有名で、「第三の流れ The Third Stream」とシュラー自身が名付けている。ガーシュインのシンフォニック・ジャズと違う点は、クラシックとジャズの即興的要素を積極的に取り入れていることだろうか(<対話>という作品に最も顕著に表われている)。後にシュラーは「第三の流れ」は、クラシックとジャズという2つのジャンルに限定されるべきではなく、芸術音楽とあらゆる民俗音楽にも適用できるとし、概念を大幅に拡大している(『新グローヴ・アメリカ音楽辞典』に用語解説はある)。用語自体はその後も一部には知られており(クラシックよりもジャズ系のミュージシャンの方が関心を持ってそうだ)、シュラーの名前が言及されるときにセットとなって出てくるようでもある。

ただ《ポール・クレーの主題による7つの習作》はシュラー自身「サード・ストリーム作品」ではないと(下記『ガンサー・シュラーとの対話』レコードで)述べている。ジャズ特有の(チーチャッカ、チーチャッカという)スイングのリズムはあるが即興はなく、演奏はすべて記譜されているからだという (その理由は、クラシックのミュージシャンは即興できないとシュラーが考えたためだそうだ)。一方、無調を積極的に使ったり微分音を異国趣味に使ったりと、自身が多様な音楽語法を扱えることを証明しているようではある。(1998-04-16改訂、2020-07-21改訂、2023-05-13訂正)


ジャズへの旅 ガンサー・シュラー指揮オーケストラU.S.A.、スキッチ・ヘンダーソン(ナレーション) Columbia CS 9047 (LP)
YouTube

サード・ストリームというか、何がクラシックで何がジャズなのか、ということを分かりやすく、それなりに深く掘り下げた作品ではないかと思う。おそらくシュラー自身の経験からの「自伝的作品」でもあるのだろうが、ジャズというのが単なるスイング・リズムや即興といった技術的な違いより、もっとディープなところがあるということが、作品を通して分かってくる。私自身、このナレーションに従ってジャズ・ミュージシャンになれるかというと、かえって恐れおののいてしまうところがあるかもしれない。ジャズを「楽しむ」リスナーの視点ではなく、ジャズという音楽の真髄にふれるミュージシャンとはなにか、を感じさせる作品というべきか。(2023-05-13執筆)


無伴奏チェロのための幻想曲 Op. 19 ロイ・クリステンセン (Roy Christensen、チェロ) Gasparo GS 101(LP)

シュラーは「第三の流れ」作品群が有名だが、一貫して無調を貫く一時のメインストリームに根差した作品も多い。この無伴奏チェロのための作品もその一例。

特殊な演奏技法を使うわけではないが、はち切れるような情熱が感じられる取りつきやすい無調音楽だ。唐突に機能和声にもとづいた終止形が最後に現われるところが、シュラーらしいといえばシュラーらしいのだろうか。(1998-08-03)


ガンサー・シュラーとの対話 (A Conversation with Gunther Schuller) RCA Victor SP 33-406(LP)
Discogs
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ラジオ番組のためのスペシャル・インタビュー録音、非売品。A面では簡単に自己のこれまでの経歴を話し、《パウル・クレーの7つの習作》について、個々の曲についても説明している。面白いのは、インタビューといいながら、収録されているのはシュラーの声だけ。聴き手の声は全く入っていない。使い方としては、聴き手が話した部分の台本がレコードに添付してあり(筆者が購入したものには付いていない。残念)、それをスタジオのアナウンサーがインタビューしたかのように話し(自然なイントネーションになるように注意書きがしてある)、シュラーの答えの部分だけをレコードでかけるということらしい。ずいぶん面倒なことをさせるものだ。シュラーが答えをひと通り終わったところでターン・テーブルを手で押さえなければならないのである。実際はテープにダビングしたものを使うんだろうな、と思おう。今だったらパソコンにあらかじめ収録しておくだろう。

エーリヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団による《パウル・クレー…》の演奏も各楽章ごとに収録されている(ただしモノラル)。(2020-07-21執筆、2023-05-27 YouTubeリンク追加)


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