ヴィンセント・パーシケッティの音楽

吹奏楽作品集(ウインド・アンサンブルのための作品集)
デヴィッド・エイモス指揮ロンドン交響楽団管楽セクション
仏Harmonia Mundi HMU 907092
Persichetti Amos LSO Winds これがもしアメリカの吹奏楽の名指揮者だったフレデリック・フェネルが振った録音なら、もっとテンションの高い、リズムがぎゅっとしまった、硬い音楽になるのかもしれない。しかしロンドンの楽隊によるこの演奏は、比較的リラックスした拍節感で風通しの良い響きがする。筆者の場合生真面目で、悪くいえば窮屈な感じで迫ってくるのがピストンやパーシケッティというイメージを持っているので、こういった演奏はかえって新鮮に聴こえた。

作品の質もなかなか良いのだから、吹奏楽というメディアの持つ可能性を捉えるには良いCDだと思う。(05.05.07.)

収 録曲: ディヴェルティメント 作品42、詩編 作品53、コラール前奏曲《おお ひと知れぬ神よ》、ページェント 作品59、仮面舞踏会作品102、《おお涼しい谷間》作品118、パラブルIX 作品121


交響曲第5番(弦楽のための交響曲)
リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団
米New World NW 370-2
パーシケッティ 交響曲第5番

ケンタッキー州にあるルイヴィル管弦楽団による委嘱作品で、ロバート・ホウィットニー指揮の同オーケストラによって、録音もされている。単一楽章による作品だが、いくつかの部分に分かれている。それはテンポの変化や使われている動機、管弦楽法(特にソロの使い方など)によって明確にさ れている。

冒頭に現われる主題は十二音で書かれており、これが曲全体を支配することになるように感じられる。しかし、音列作法のような知的操作よりも、もっと自由な主題の展開を考えているようだ。

パーシケッティの音楽は、基本的には機能和声の内に入らないということで無調であるが、すべての音を均等に扱おうという方向性は感じられない。むしろ、積極的に作品に応じて音階構造を考え、それを有効につかっている。動機やフレーズの簡潔さによって、一般に指摘される無調音楽の「難解さ」も、それほど感じられない。

また、パーシケッティ独自のシンコペーションを多用した、パンチの効いたリズムも楽しい。

明確な形式観、捉えやすい動機群、躍動的なリズムが魅力の作品である。

ムーティの演奏は、時として、表現が平面的になってしまうこともあるが(特に後半の叙情的な部分の前半など)、作品の持つ劇的な鼓動を感じ、オーケストラをうまく流しているようだ。そのオーケストラの色彩がもっとうまく出てくると、より面白く聞こえるかもしれない。クライマックスにも、 もう一つ盛り上がりに欠けているように思われた。ただし、これは作品自体の問題なのかもしれない。

カップリングは、同じくパーシケッティのピアノ協奏曲。指揮はシャルル・デュトワ。こちらも、すぐれた演奏。(1999.7.17.)



交響曲第4番
ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
米Albany TROY 276

パーシケッティ 交響曲第4番

1951年の作品。当時パーシケッティは一時間にも及ぶ歌曲集にも同時 に取り組んでいたが、第4交響曲は、作曲の合間の良い気分転換になったという。それは「容易に素早く」書き上げられ、「書いたこともほとんど覚えていない」ほどだという。彼は、この作品の性格を「明るく軽快」であるとし、その形式は古典的で、具体的には「ハイドン風の序奏」に始まり、モーツァルトやムソルグスキーにも目配せすると述べている。

このCDに録音されたオーマンディとフィラデルフィア管弦楽団は、アメリカの諸都市で第4交響曲を数多く演奏し、1959年にオーマンディが渡欧した際には、BBC交響楽団やアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とも同曲に取り組んだという。

フィラデルフィアにおける初演に対する批評家の反応は様々で、ある批評家は、作品に確固とした職人芸を認めながらも、何かを伝えようとるする意思がなく、響きと楽器の組合せ方にしか関心が無いと批判し、他の批評家は、「オリジナリティや生命力、魅力」をおおいに賞賛した。作曲者自身によ ると、「フィラデルフィアの人々は作品を気に入ってくれた。ワシントンの人々は大好きだと言った。アムステルダムの人々は楽しんだ。ニューヨークの人々は寛容をもって接してくれた。イギリス人がどう思ったかなんて知らないね」、ということらしい。

筆者個人は楽しく聴ける作品だと思うが、やはり短い時間に書いたという作曲者の発言に納得してしまう。感情の起伏や深遠な思想をこの曲に求めてはいけない。むしろ、確かな作曲技法に裏打ちされた鮮やかな音楽的瞬間に触れ、作曲する楽しさが感じられれば、それでいいのではないだろうか。 オーマンディはここで非常に良い仕事をしていると思う。(98.6.4.)


カップリング:ウィリアム・シューマン《クレデンダム》、ルイス・ギゼンズウェイ《フィラデルフィアの4つの街角》


《シンフォニア:ヤーニクルムの丘》作品133(交響曲第9番)
ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
日BMGファンハウス BVCC-38303
パーシケッティ 第9交響曲
パーシケッティは、吹奏楽作品や第6までの交響曲などから類推するに、現代的な和声を使いながらも爽快で風通しの良い作風で書いてきたように感ずる。しかし、この第9番の交響曲や室内楽作品のいくつかのように、無調的な響きのする作品も少なくない。これが唯一の音源なので、演奏の善し悪しの判断は難しいが、パーシケッティが最終的にどういった作風に辿り着いたのかを考える好学心のあるリスナーには興味深い録音だといえる。

なお、この音源のCD化は日本独自の企画によるもので、本国アメリカでもリリースされていないはずだ。カップリングがペンデレツツキのオラトリオ《ウトレンニャ:キリストの埋葬》であるため、ジャケットがこうなっている。裏側にはウィリアム・シューマンの第9交響曲とカップリングされていたパーシケッティ音源のLP時代のジャケット・デザインがある。できればウィリアム・シューマンの第9交響曲もCD化して欲しいと筆者個人は思っている。(05.05.14.)



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