ハリー・パーチの《怒りの妄想》の待望のCD化。アメリカでは、この作品こそがパーチの集大成だと考える人が多いからだ。しか し第1幕の前半までは、パーチ独特の言葉の抑揚による面白さ、自己陶酔の極意みたいなところがなく、自作楽器による生真面目な音楽という印象が付きまとっ ている。ビデオでみれば、確かに能…というか意味不明の武士風の出で立ち--歌舞伎の『暫』(しばらく)???--の登場人物を楽しんだり、それがパーチ 独特の、国籍不明の音楽とミックスしたりといった面白さはある。でも、そういった映像がないと、ちょっとこの部分はつらいと思った。曲としてもまとまり も、おそらく舞台を見れば、その進行とともに追うことが可能なのだろうが、それもできない。しかし、トラック6くらいになると、曲も盛り上がってくるの で、それほど悪くない。第2幕の方は、リズムの躍動感もあり、ワイルドな女声も良い。なおLPでは3枚目に楽器紹介のボーナスがついていたが、このCDに はない。
米コロンビアの録音は、CRIの4枚組ハリー・パーチ・コレクションよりはずっとクリーンで迫力もある。パーチの奇々怪々な楽器の音を充分楽しむに
はよいだろう。(2000.4.21.、01.5.5.、01.9.28.改訂, 2020-05-18 UbuWebリンク追加)
1990年代の後半くらいだろうか、アメリカでは突然ハリー・パーチの音源・映像・書籍が立て続けにリリースされたことがあった。個人的には「ハリー・
パーチ・ルネサンスが起こった」とうかれていた記憶がある。
筆者は1980年代の終わり、ニューワールド・レコードからリリースされたデヴィッド・テュードアの演奏するケージの《変化の音楽》 (第3部・第4部)のLP(New World 214-1、廃盤)の裏面(正確にはパーチの方がA面)に収録されていたパーチの声楽作品を興味本位で聴いて、その摩訶不思議ぶりにノックアウトされてし まった。それ以来、パーチの音源を探していたのだけれど、当時はこの3枚のコレクションはなく、CRIからは《The Bewitched》ともう1枚オムニバス盤が出ているだけだった(Tomato RecordsのCDはあったかな?)。そしてどちらも私がニューワールドLPの声楽曲で得たインパクトがなかった。器楽作品もそれほど悪くないけれど、 私はパーチ自身が独特の壊れたようなギターのような楽器に合わせて語り歌う独特の音楽の方に興味を持ったからだ。もちろん英語の歌詞の意味は分かってな かったけれど(今でも?)、何だか音としてもとても面白かったのである。 そして「パーチ・ルネサンス」はまずInnovaというミネソタのマイナー・レーベルから始まったように思う。ここはGate 5レコードでも、かなり古いSP時代のものを集めてリリースしていた。さらにこのレーベルはGate 5とは別に、映画を集めたビデオまで出し始めた。これには本当にびっくりした。フロリダ時代に読んだ『Numus West』という雑誌でパーチの映画がたくさんあることは知っていたけれど、どれもレンタルだったし雑誌記事も1974年のものだったから、絶望的なもの を感じていたからだ。それらがこんなにあっさり手に入ってしまうとは、という感じだった。 その後、たまたまGate 5のLPレコードをMITの音楽図書館でみつけた。これらはInnovaのCDよりも新しい録音で、特に《オイディプス》の抜粋にいたく感動した。パーチ はこんなにドラマチックな音楽も書いていたのかと(本当はLPには丁寧なブックレットのような解説書もついていたのだけれど、CDには付いていないのが残 念である)。 ここにジャケット写真を載せたCRIのパーチ・コレクションには、ニューワールドLPに含まれていた声楽曲もMITで聴いた《オイディ プス》などのGate 5 LP音源も収録されていたので、もれなくすべて買い揃えた。確かTzadikレーベルからも新録音によるパーチの歌曲のCDもリリースされたが、やっぱり パーチの声楽曲はパーチなしにはあり得ないという結論にたっしてしまった(これは逆説的に彼の音楽が録音でしか、その豊かなニュアンスが楽しめず、した がって音楽そのものも先細りになってしまうということになってしまうのだが。なおクロノス・カルテットの《バーストー》はパーチの作品と捉えるのが難しい くらいに原曲のスピリットが蔑ろにされているように思う)。 いずれにせよ、パーチのCDといえば、私はこのCRIのコレクションが一番質の良い演奏が揃っているように思う。Gate 5のLPはものすごいプレミア価格が付いていたと思うので、CDが出た時は随分コレクターもやきもきしたのではないだろうか(もちろん私は持っていな い)。 なお、現在はこれらのコレクションをまとめたものがニューワールド・レーベルからリリースされている→参考ページ。(02.1.15.執筆、05.3.24.改訂) |
パーチが制作に関わった、あるいは登場した映画の数々を収録したもの。かつては音楽祭などの時に、レンタルされていた16mmフィル
ムも含まれているようだ。
新体操の動きに音楽を付けたものも冒頭に入っているが、おそらくそれよりも興味深いのは、彼自身が自家製の楽器を置いたスタジオを案内 する映画だろう。ベティー・フリーマンによる「The Dreamer that Remains」に比べて、やや自らを作っている感じがしないでもないが、楽器の紹介などは、やはり映像があると面白い。パーチ自身、音楽演奏におけるビ ジュアルな側面を大切にしていたので、カラフルな楽器や演奏家たちの表情をみると、彼の音楽が、かなり身近に感じられるようになると思う。 (02.1.15.執筆、05.3.24. 改訂) |
おそらくパーチ晩年に収録されたと思われるベティー・フリーマン制作の
ドキュメンタリー映画。映画はパーチが自作のリード・オルガンに向かって話すシーンで始まる。何かを語っているのだが、イントネーション豊かなその語りが
段々濃厚になり、感情がここぞと高ぶったところで、パーチはおもむろにオルガンを弾き込み始める。何かに取り憑かれたかのように。「凄いなあ濃いなあ」と
思う一方、独特のアブなさも感じた。 Innovaからリリースされたドキュメンタリーとは違って、この映画にはパーチの人間的魅力があふれている。楽器の紹介ではなく、彼の人生経験を聞いた りリハーサル風景を見ることができる。295ドルと高価だが、もし機会があれば、ぜひご覧いただきたい。かつてはCRIが70ドル近くで売ってくれたのだ が…(03.12.28.アップロード、04.7.26. 訂正) |
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(2018.3.31.追記)
この動画も、いまはYouTubeで全編観られるようになっている。すごい時代だ…。 |
パーチの弟子の一人、ダンリー・ミッチェルによる《砂丘のダフネ》、
《バーストー》、《カストルとポルクス》の3曲。いずれもパーチが演奏に参加しており、録音の監修も行っている。特に《バーストー》における味わい深いナ
レーションはパーチならではだろう。器楽演奏の方は、どの作品もリズム感のしっかりしたものだ。(03.12.28.) |