ダニエル・レンツの音楽


アルバム『The Crack in the Bell』 ダニエル・レンツ・グループ、ジェシカ・ローウェ、ジョージ・スターン(ヴォーカリスト)、ジョン・ハービソン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック現代音楽グループのメンバーほか

レンツ アルバム『Crack in the Bell』

1990年代初頭、ダニエル・レンツやカール・ストーンの音楽が東京で紹介されていた。レンツもお茶の水のカザルス・ホールで来日公演を行っており、アメリカの作曲界の流れを知ろうと出かけていった。

しかしステージで演奏された楽曲を聴いて私は当惑した。「なんだポップ・ソングもどきじゃないか」。ポピュラー音楽が悪いというのではない。アメリカの現在(イマ)を代表する現代の音楽が、イマ風のポピュラー音楽を取り入れたつもりで、得体の知れないつまらない音楽を作っているのではないか、という印象だっただろうか。

レンツだけじゃない。ローリー・アンダーソンだってそうだ。彼女の場合はウイットの効いた歌詞やテクノロジーを見せ物にした派手なパフォーマンスが「アート」として認知され、いや単にウケていたのかもしれない。でも音楽の「弱さ」は評論家からも指摘されていたようだった。

2005年の今、再びこのCDを聴いてみる。いま彼の音楽はどうなっているのだろう。CDから聞こえてくるのは懐かしい80年代サウンド。「ああ、こういうのが当時『ミニマル』の最先端と考えられていたんだろうな」というノスタルジアの埃のようなものは出てくる。(2005.5.5.)

追記:上記の感想っていうのは、いま思うと何で当時はこんなに気負っていたのかという感じで驚く。了見が狭かったのか、今はずっと楽しく聴ける。《鐘の割れ目》には《アメリカ国歌》や《アメリカ》など愛国的な歌が引用されているのが気になる。ちょっとポール・ランスキーみたいなところがあるな。政治性が孕んでいそうな感じだ。(2020-05-23) 収録曲は《鐘の割れ目 The Crack in the Bell》(1986)《野生の七面鳥 Wild Turkeys》(1985-86)《夢の王様 The Dream King》(1983)《子守唄 Lullaby》(1977)《さようなら Adieu》(1983)である。


《影のミサ》 New Albion NA 006CD

レンツ アルバム『Crack in the Bell』

《影のミサ》は19世紀和声(機能はおいといて)の枠組みからそれほど離れない響きを使っているが、声の鳴らせ方が独特の、叫びのような主張になっていて力強い。きらきら、さらさらとした音をバックに入れた《O-Ke-Wa》も悪くないが、どうしても音楽が流れっぱなしになることが多いようだ。《ミサ》は、構成がよりタイトに聞こえる。(2000.5.22. 執筆、2005.5.5. 改訂)





《セイレーンの歌 Song(s) of the Sirens》Montagnana Trio. Columbia P 15380/BS 15390 (Joseph Kerman: Listen, 3rd ed.) (LPレコード).


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