ロイ・ハリス(1898-1978、今年生誕100年)は、高校卒業後第1次世 界大戦に参加し、戦後トラック運転手として働いていたのですが、2 0代半ばになって一念発起、カリフォルニア大学で作曲を学び、後に コープランドの紹介によりパリへ留学し、ナディア・ブーランジェ (この名前は、後に何度も登場しますので、記憶にとどめてくださ い。)に師事しています。帰国後、精力的に作品を発表したのです が、「交響曲第1番」が指揮者セルゲイ・クーセビッキーの目に留ま り本格的に知られることになりました。しかし、なんといってもハリ スを有名にしたのは「交響曲第3番」で、これはクーセビッキーをし て「アメリカで初めて現れた真に偉大な管弦楽作品」と言わしめた傑 作で、初演後から絶賛の嵐(翌シーズンには、全米の主要オケで33 回も演奏されたという記録があります)のなかで、ハリスは米国作曲 界のトップクラスの地位を勝ち得てしまいます。しかし、その後あま りにも作風が変化しなかったために、マンネリズムと批判され、また 戦時中にソ連軍のために交響曲第5番を捧げていたために、冷戦時代 にはレッドパージの対象になる(全くの誤報が、ニュースで全米に伝 わってしまったのです)という不幸も重なって、評価が下がってしま いましたが、その誠実な音楽は再び評価されつつあります。教育者と しては、門下から、W.シューマン、V.パーシケッティ、そしてP.D.Q. バッハ(ことPeter Schickele)などが輩出しています。さて、ハリスは驚いたことに戦前から吹奏楽曲を14曲も作曲、その 他(金管、打楽器、アンプ付きピアノ、合唱のための)交響曲第10番 「アブラハム・リンカーン」など金管合奏を中心とした曲もかなりあ ります(ジャズバンド曲、金管のファンファーレなどは含みません )。とりわけ注目されるのが、このウェストポイント陸軍士官学校の ために書かれた標題の曲で、演奏時間約18分の単一楽章の交響曲で す。初演は1952年5月30日、D.ミヨー、M.グールドに続く、「ウェス ト・ポイント」シリーズの一曲です。交響曲というにもかかわらず形 式としてはかなり自由に解釈されており、作曲者の説明では3部に分か れているとのことです。全合奏で派手に鳴らす部分も少なく、どちら かというと合奏協奏曲という雰囲気が強いです。やはりこの曲も全体 的に金管群の活躍が目立ち、金管の息の長いコラールを、木管が飾る というパターン、又はその逆のパターンが目立ちます(これこそハリ スの特長なのですが)。オーケストレーションは至ってシンプルで、 音色的にも淡彩なのですが、全体をとおしてハリス独特のの個性的な サウンドが設計されており、このへんはやはりタダモノではないとい うところでしょうか。それほど、技術的に困難な印象は受けないので すが、各楽器のアンサンブル力が露骨に出てしまうタイプの曲という ことで、たいへんな難曲だと思います。
この曲を聴くと、各楽器群(金管群、木管群、打楽器群)の対比的 な書法などは、パーシケッティの初期の作品群に強い影響を与えてい ることが感じられます。音楽評論家、奥田恵二氏はハリスの作品群を 「要領が悪く無骨で田舎臭いが、誠意がこもっている」と評されてい ますが、この曲にもその言葉があてはまるような気がします。印象的 なメロディも豪快な展開も乏しいですし、同名のタイトルを持つM.グ ールドの曲と比べると地味ではありますが、じっくりつきあってみる と、なかなか味わい深い物があります。(98.12.6. アップロード)
以下のCD情報はmarigauxさんからいただきました。ありがとうございます。
◎ ROY HARRIS / ROBERT RUSSEL BENNETT ジェイムズ・ウェストブルック指揮 UCLAウィンドアンサンブル 他 (米 Bay Cities BCD-1008) R.ハリス/吹奏楽のための交響曲「ウェスト・ポイント」 R.ハリス/弦楽合奏のためのコラール R.ハリス/弦楽合奏のための前奏曲とフーガ R.R.ベネット/ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲