モートン・グールド:自由へのファンファーレ

S. O.さんによる寄稿です。ありがとうございます

モートン・グールド(1913-1996)について、ちょっと長い前置きをし ます(ASCAPのホームページなどを参照)。彼も、若干6歳の時の作品 「Just Six」が出版されて注目を浴び、確か10歳で奨学金を得て大学 の作曲過程で学んでいたという、まさに神童であったのですが、17歳 で、すでにラジオ放送と専属契約し、音楽番組の制作・指揮をやった りしています。作品も膨大で、それらはトスカニーニ、ストコフスキ ー、ライナー、ショルティ、オーマンディなどの大指揮者によっても 好んで演奏されています。指揮者・レコーディングアーティストとし ても、グラミー賞を受賞(ノミネートは実に12回にもおよびます)す るなど多くの実績を残しています。一方、ジャズやポピュラー音楽関 係者、さらに芸能人・文化人との付き合いも多く、多方面から信頼の 厚かった人でした。

彼の業績を書いていてはキリがないので、一気に晩年まで飛ばしま す。彼は1986-1994までASCAPの会長に選出され、著作権保護の活動に 奔走することになります。いくら「アメリカン・サリュート」をわず か一晩で書き上げてしまったという超人的な作曲能力を持つ彼でも、 流石にこの間の作曲数は少なくなります。しかし、2期の任期を終え てようやく創作を本格的に再開し、なんと「Stringmusic」が、1995年 度のピューリッツアー賞を受賞します。80歳を越えてもなお、過去の 人にはならかかったのです。

吹奏楽は、ご存知のように、沢山の名曲を残しているわけですが、 彼の作品リスト(Instrumentalist, 1996,May)には実に50曲近い作品が ありまして、良く知られているのはほんの一部なのですね。晩年に も、「Holocaust Suite」、「American Ballads」(この2作は、完全 な吹奏楽オリジナルではありませんが)、「Centenial Symphony」と いったいずれも20分を越える大作を書いています。そして1995年に はUniv. of Connecticut W. E.により「Remembrance Day -- Soliloquy for a Passing Century 」が初演され、これには彼の作品 をこよなく愛する名サックス奏者?のビル・クリントン氏も列席して いました。(余談ですが、グールドは先年氏のためにサックス独奏曲 を書き、ホワイトハウスにおいて謹呈しています。グールドから楽譜 を手渡されてクリントン氏が喜んでいる場面の写真がどこかのURLにあ ったのですが....。)

そして彼は、1996年2月20日、オーランドでディズニー主催(このへ んがグールドらしさですね)のU.S. Military Academy Bandによる 「All Gould Program」なる演奏会に出席し、満場の聴衆からスタンデ ィングオヴェイションを受け、大満足だったようです。  翌朝、全米に悲報が走ります。当地のホテルでまさに前日の音楽で 送られたかのように、彼は天に昇ってしまたのです。とりわけ、前日 にその元気な姿を見たオーランドの関係者たちの心中たるや...。まる で遺言のような副題を持つ前述の吹奏楽曲「Remembrance Day」が、彼 の完成された最後の作品となってしまったわけです(合唱作品とピア ノ協奏曲第2番が未完成だった)。なにか、彼と吹奏楽との因縁を感 じてしまいますね。

その4週間後、カーネギーホールで彼の追悼演奏会が開催されまし た。そこでは、遺作「Remembrance Day」などが演奏され、クリントン 氏や各界の名士達が列席し、故人の偉大な業績を忍んだのでした。現 ASCAP会長のマリリン・バーグマン女史(オスカー受賞の作詞家)のコ メントを引用しておきます。

"America has lost one of its most distinguished composers and conductors, and the creative community has lost one of its great leaders. No one I know was more respected and loved here at ASCAP and throughout the world for both his musicianship and his great humanity. His vigor, his wit and his spirit led us to believe he would live forever. And in fact, through his music and the legacy he left us, he will."

(谷口意訳)「アメリカは、その国内において最も優れた作曲家であり指揮者でもあった人物を失った。作曲界はその偉大な リーダーを失った。私の知る限り、ここASCAPで、あるいは世界中で、その音楽性と素晴しい人間性を通し、彼ほど尊敬され愛された人物はいなかった。彼 の活力やウィット、気迫のおかげで、彼は永遠に生き続けるのではないかとさえ思われた。いや、彼の音楽とそれを含めた数多くの遺産によって、実際に彼は永 遠に生き続けることになるのだ。」

彼が、如何に多くの人から敬愛されていたかが理解できるでしょう。 これほどの人物が、吹奏楽を重要視していたという意義を考えると、 私は、もっとグールドが評価されても良いのではないかと思うのです が、如何でしょうか。

さて、長くなりましたので、その追悼演奏会でも取り上げられた短 い曲を1つご紹介します。標題の曲は、1943年の作品。オケの管楽セ クションで演奏される1分半ほどの短い曲ですが、グールドの才気がは じけ飛ぶような生き生きとしたファンファーレです。「ジェリコ」中 の壁崩壊あたりの音形が登場するのがご愛敬ですが、バーンスタイン にも似た少し乱暴なくらいのイキのよさが爽快です。こういう快活さ は、やはりバーンスタインやコープランドほどのセンスがないと書け ないと思います。

さて、グールドについては他にも、ガンサー・シュラーやレスリ ー・バセットの曲と間違えそうなほど実験的な意欲作(彼としては超 異色作)である「プリズム組曲」など、忘れ去られるには惜しい曲が 沢山ありますね。(99.1.4.アップロード)



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