ルーカス・フォス (Lukas Foss, 1922-2009) の音楽


大草原 (The Prairie, 1944) ルーカス・フォス指揮ブルックリン・フィルハーモニー管弦楽団ほか グレッグ・スミス・シンガース Turnabout TV-S 34649(LP)

フォスがレコード解説書に書いていることを要約してみよう。15歳の時ドイツから移住してきたフォスは、アメリカという国にすぐさま魅了され、19歳にカール・サンドバーグの詩『大草原』に影響を受けて、作曲を思い立ったという。友人は曲に没頭する前に詩人に許可を取るべきではないかと忠告したそうだが、実際にサンドバーグ宛に手紙を送った時は、作品の半分までが、すでに仕上ってしまっていた。しかしサンドバーグからはすぐに返事が来て、出版社には「この若者は、正々堂々としたとしたアプローチをしている。チャンスを与えてやろうよ」というメモまで送ってあったいう。そこで1944年、ニューヨークのタウンホールにて、アーサー・ロジンスキー指揮ニューヨーク・フィルの演奏で、フォスのオーケストラ伴奏による、声楽ソリストと合唱団による《大草原》が初演され、フォスの出世作と相成ったのである。

作品は、フォスの言う通り、「アメリカン・カンタータ」という趣きである。冒頭を聴くと一瞬コープランド的なものを思い出すのだが、それは題材から来るものだろうか。しかしその後の展開は、もっと重いオーケストレーションであったり、バーンスタイン風のシンコペーションのフレーズがあったり、多彩であることが分かる。ただ、個人的にはあまり楽しめなかった。(02.2.5.)


インプロヴィゼーションの研究 ルーカス・フォスとインプロヴィゼーション・チェンバー・アンサンブル (ルーカス・フォス [ピ ア ノ]、リチャード・ドゥファロ [クラリネット] チャールス・デランシー [打楽器]、ハワード ・コルフ [チェロ] 、ディヴィッド・デューク [フレンチ・ホルン]) 日本ビクター SHP-2248 (LP)

幻想曲とフーガ; クラリネット、打楽器とピアノのための音楽; ユニゾンの主題による変奏曲; 五重奏曲 (モイラ); アンコール第1《バガテル》; アンコール第2《古風なアリア》; アンコール第3《サーカス・ピース》

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フォス第2期。即興演奏に関心を持ち始めた時代。彼が「前衛」として最も注目された時代といえるのかもしれない。

レコード・ジャケットの裏はフォスに関する解説。インサートには、各曲がどのように構成されているか、どのくらい即興で、どのくらい定まっているのかについての解説が書かれている。

といいつつ、ここではぱっと聴いた印象で書いてみる。ピアノ・クラリネット、打楽器とチェロのための《ファンタシー とフー ガ》(ジャケットの裏は《幻想曲とフーガ》表記) は、びっくりするほどロマンティックでフーガもしっかりしている。だから前衛音楽やらフリージャズに期待する「即興」を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。《クラリネット、打楽器とピアノのための音楽》の冒頭は、探り合っているところもあって、なかなかおもしろいが、後半は、ビートに乗った緊迫感のあるやり取りが聴けるが、個人的にはピーター・メニンの音楽を思い出してしまった。一応だれが前景なのか後景なのか、どのくらい他の即興に反応するのか・しないのか、といったような大雑把な取り決めはしてあるらしい。

クラリネット 、ホルン、チェロ、打楽器とピアノのための《ユニゾンの主題による変奏曲》は、音列による主題が設定されており、それ以降、変奏に入っていく。誰が主題を担当し、だれがサポートするのか、対旋律を奏でるのか、といったことが指定されているよう。音列自体は調性的でシンコペーションを効かせていることもあって、ややジャズ風味といったところか(最後に旋律が戻ってきて終わりというのもジャズっぽい)。それに対し変奏はとりとめもない進行だったり、とりあえず元旋律は聞こえてくるけど他は?というものだとか、いろいろだ。(2023-05-14執筆+この項つづく)


アメリカン・カンタータ (American Cantata, 1976) ルーカス・フォス指揮建国二百周年記念合唱団、世界青少年交響楽団 Audio House AHSI 164F76(LP)

フォスの第3期、つまり折衷作法に移行した最初の記念碑的作品。それまでいわゆる「前衛」音楽に興味を持ち、集団即興も試みていたフォスだが、前衛がアメリカ的でないことに疑問を感じ、アメリカらしさをできるだけ前衛の語法を使わずに表現した結果がこのような楽曲につながったのだという。ナレーターやエレキギターが入っているのを聴くと、どうしてもバーンスタインの《ミサ》を思い出してしまうが、年代的にはバーンスタインの方が先だったはず。アメリカ建国200年記念を期に委嘱されたもの。フォス自身「録音はない」といっているので、おそらくこの録音はプライヴェートに配付されたものなのだろう。 折衷主義とは言うけれど、それが真に「主義」と呼べるほどの効果的な表現となるのは、それほど容易ではない。この作品はテープの使用、エレキとドラムセット、無調混声合唱、ベルカントのソロ歌手、手持ち電子メガフォンの声など、その雑多な音素材もそうだが、雰囲気的に垢抜けていて、「ブッ飛んでいる」ところが爽快だ。一方で、テキストには南北戦争に向かう息子から届いた手紙や、バーゲンセールのアナウンスのようなものがやはり「ごった煮」的に使われ、いかにもアメリカといった感じだ。

フォスの音源としては、独グラモフォンから出た《パラダイム》と並んで面白いものの一つ。(02.2.11.、02.4.23.追記)


夜の音楽 (Night Music, 1979-80) ウィルマー・ワイズ (トランペット)、ニール・バーム (トランペット)、ブルックス・ティロットソン (ホロン)、ジョナサン・テイラー (トロンボーン)、アンドリュー・セリグソン (チューバ)、ルーカス・フォス指揮ブルックリン・フィルハーモニー交響楽団 Gramavision GR 7005 アルバム『Solo Observed』

筆者がオークションで入手したレコードはジャケットが傷んでいて残念。しかし盤そのものは、それほど悪くなかった。

副題が「ジョン・レノンのための」で「前奏曲、フーガとコラール」というセクションからなっていることが示されている。「1980年12月8日を偲んで」という言葉もレコードのジャケット解説に添えられている。

ノースウッド交響楽団の委嘱により作られた金管五重奏と室内オーケストラの作品。ジョン・レノンが暗殺された日の朝に作曲を開始したという。レコードの解説にある通り、レノンの曲からの引用はなく、ビートルズの曲との様式的な類似性もまったくない。冒頭の前奏曲は、ゆったりとしたノスタルジックなピアノのオスティナート・モティーフの繰り返しの上に、不穏な弦楽器の和声が被せられてくる。そして金管楽器による柔らかなファンファーレが静かに奏される。

前奏曲が静かに途切れると、速いテンポによる、ミニマル・ミュージックを思わせるオスティナート、エレキギターのリフによる第2のセクションが始まる。旋律らしき旋律というのは聴こえてこないが、ずっとリズミカルに展開していく。音色の変化も楽しい。

リズム系が背後に追いやられつつ、そこに金管楽器群によるコラールが被せられる。最後は冒頭のノスタルジックが戻るが、同時に不協和音が力を増し、力強い一打で曲が終わる。やはりこれはジョン・レノンの死に対する嘆きということなのだろうか。

時代時代で様々な作曲技法を吸収しつつ変遷する、フォスらしい1曲。(2023年5月4日執筆)


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