ポール・クレストン:プレリュードとダンス
その他のクレストン作品

S. O.さんによる寄稿です。ありがとうございます

クレストン(1906-1985)は、本名Josph Guttoveggio、極めて貧しいイタリア系移 民の子として生まれ、個人的にピアノとオルガンのレッスンを受けた以外は、正規の音 楽教育は受けられませんでした。教会や映画館のオルガン奏者を務めながら大勢の家族 を養っていたのですが、ようやく26歳になって作曲家になることを決意しました。大変 な努力をして全く独学で作曲の勉強をし、次第にH.カウエルにその才能を認められるよ うになります。32歳でグッゲンハイム奨学金を得、35歳の時に「交響曲第1番」が第 1回のニューヨーク批評家協会賞を受賞して注目を集めました。その後は、戦後の米国 の好況にも乗ってそのエネルギッシュな作風が瞬く間に世間に受け入れられ、最も演奏 機会の多い作曲家の1人になります(彼の作品は、トスカニーニ、ストコフスキー、オ ーマンディ、モントゥー等によって取り上げられました)。そして、比較的若くして全 米作曲家・指揮者協会(1956-60)、ASCAP(1960-68)などの会長を歴任し、米国音楽 界のリーダー格になります。まさに、アメリカンドリームですね。

彼の作品の特長は、極めて保守的ながら(カウエルをして、クレストンの伝統的な展 開法が(当時のアカデミックな作曲家と比較しても)比類のないものであると、非常に 高い評価をしています)独特の執拗に繰り返される複雑でありながら計算されたリズ ム、そして厚い現代的な和声にあります(彼は、「Principle of Rhythm」 「Creative Harmony」という理論書も著しています。)。そして、彼の音楽のバック ボーンは「ダンス」と「教会音楽」であろうかと思います。どちらかというと、ハデに 鳴らす音楽に彼の本領が発揮されるようなのですが、叙情的な部分も豊かな旋律性と相 まって実に味わい深いものがあります。

さて、クレストンも10曲を越える吹奏楽曲を遺していています。そのうえ、管弦楽作 品でも管楽器が大活躍するものが多いですし、そのなかに吹奏楽特有の楽器を導入する こともあります。例えば、感動的な管弦楽作品「コリント書13章」にはユーホニウムが 入っています(この曲の最後に登場するソロがユーホであることに気がつかれた方もい るのではないでしょうか。)やはり、管楽器との相性がすこぶる良い人だったと思いま す。

標題の作品は1959年に初演された、単一楽章の約7分の作品です。プレリュードは 劇的な導入の後、魅力的なソロの多い叙情的なゆっくりした音楽となります。再び大き く盛り上がったあと、少し落ちついて、またダンスに入るための盛り上がりを形成し、 切れ目なく速いテンポの複雑なリズム型を伴うダンスに入ります。この人の作品の特長 として、ほとんどの楽器にまんべんなく見せ場を提供しますが、ここでは特に、サック スとユーホが魅力的です。個性的なリズム、印象的なハーモニー、このクレストンの特 長を存分に発揮しながら速度を緩めることなくダンスが展開され、精力を維持したまま 豪快な終結を迎えます。

米国では比較的よく演奏されているのですが、日本では殆ど演奏されていないのが惜 しまれます。リズム処理が難しく、技術的にもかなり高いレベルを要求されますが、管 楽器の扱いが非常に優れていますので、奏者にもやりがいのある作品となるのではない でしょうか。これも傑作だと思うんですが....。

クレストンには「ザノニ」(私は、20年ほど前にこの曲を演奏して、あまりのショッ クに吹奏楽の「演奏」からは退いてしまいました.....(T_T))、「Festive Overture」 など、好きな作品がいっぱいあるのですど....。(99.4.15.アップロード)



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