カウエル(1987-1965)は、6歳でバイオリンのリサイタルを開くほど
の早熟だったのですが、病を得て作曲に転向しました。しかし、作曲 は殆ど独学です。なんといっても、カウエルが有名なのは、現代音楽
では常用される技法「トーンクラスター」を15歳の時に世界で初めて 公開した(チャールズ・アイブズの方が先という説もありますが、カ
ウエルが大センセーションを巻き起こしたのに対し、アイブスは発表 すらしなかったのですから。)ことです。そして、技術者、L.テレミ
ンと共同して「リズミコン」というリズム発生楽器を発明したり、新 しい音楽の可能性にも意欲的に取り組んだ人です。そういうことで、
当時としてはかなり先駆的な音楽を創作したりもしたのですが、その 大部分は(とにかく作曲数の多い人ではあるのですが....)様々なス
タイル(例えば、古典風、民謡風、中東風、ラテン風、日本風! !....)を持った比較的分かり易い作風です。そして彼には、ガーシ
ュイン、そしてジョン・ケージやルー・ハリソンといった凄い作曲家 が個人的に師事しました。
さて、カウエルが生涯になんと27曲もの吹奏楽曲を書いていること は、十分驚嘆に値することでしょう。初期のゴールドマンバンドにも
精力的に作品を提供していたのですが、惜しいことに、戦前の作品の 多くは楽譜が行方不明になっています。
さて、「眠りの音楽」の副題を持つこの曲は1939年初演、全体がゆ っくりしたテンポで穏やかに演奏される演奏時間約5分の小品です。曲
はA B A C A B Aの形を取り、ゆっくりしたテンポでAで不思議な旋律 をソロの管楽器が次々と担当していきます。このメロディは私には中
近東系の雰囲気(例えて言うなら、ホヴァネスの交響曲4番の第3楽 章の前半のような)を持っていると感じます。(事実、カウエルはそ
れ以前に「ペルシャ組曲」という吹奏楽曲なども書いていまして、そ の系統の音楽も十分に研究していたのです。)殆ど小節ごとにメロデ
ィを担当するソロ楽器が変わるのですが、意外と違和感が無く、自然 な流れを持っています。Bは少しテンポを早めて、民謡風のほのぼのと
した旋律になります。再び、A、そしてその延長線上にあるC、そして 以下上記の形態で、最後は静かに終わります。W.ウォルトンの管弦楽
曲「シエスタ(午睡)」に似た、全体になんとなくだるい雰囲気を持 っていて、副題の意味がわかるような気もします。
ところで、カウエルはグレンジャーと知り合い、その1930年代時点 の吹奏楽曲(オリジナル曲)が、あまりにも音を重ねすぎるという点
で意見が一致し、共に管楽器の音色の特性を生かした吹奏楽曲を書こ うとしたようです。この曲のソロが多いこと、そして楽器の扱いが的
確であることに、そういう意図が反映されるように感じます。曲の大 半を占めるAのクセのあるエキゾチックな旋律受け入れるか、違和感を
持つかで、大きく好みが分かれる曲だとは思いますが、決して派手で はないながら、もっと注目されてよいでしょう。(すこし退屈すぎる
ようにも感じますが....。)
余談ですが、グレンジャーとカウエルには強い信頼関係があったよ うで、カウエルの管弦楽曲「古代の地底のドローン」はグレンジャー
の指揮で初演されていますし、その約1月後カウエルはグレンジャー の58歳の誕生日のために「58
for Percy」というバンド作品を書い ています。(98.12.6. アップロード)