レナード・バーンスタイン:ウエスト・サイド・ストーリー

いわずと知れたブロードウェイ・ミュージカルの大ヒット。トニーによって歌われる<マリア>の冒頭は、アメリカの音楽理論の授業では、増4度を生徒 に教えるときによく使われるという(西洋の音楽理論では「悪魔の音程」として最も嫌われた音程だ)。


全曲盤(ただしセリフも全部はいっているという訳ではな い)
マリア:キリ・テ・カナワ、トニー:ホセ・カレーラス、アニタ:タティアナ・トロヤノス、リフ:カート・オルマン、"Somewhere"の歌手:マリリ ン・ホーン、レナード・バーンスタイン指揮オーケストラ&コーラス(特別編成) 独Grammophone 415 253-2

West Side Story DG CD グラモフォンに晩年のバーンスタインが録音した このCDは、確かに作曲家バーンスタインの思い入れが結晶した素晴しい録音ではあるのだが (感動的な録音風景は、ビデオにもなっている。下記参照)、これが本当にミュージカルの文脈で演じられるものなのか、最終的には疑問が残ってしまう。 ミュージカルの 歌手がみんなカレーラスやカナワみたいに歌うのだろうか(オペラティックな歌い方をするクラシックの歌手とブロードウェイの音楽家のミックスは成功してい るのか)? 作曲されたナンバーが全部作曲家の意思通りに舞台で演奏されるのか(ある程度犠牲になってしまうのが、ミュージカル作曲家の地位なのではない だろうか)? などなど。

やはり私はバーンスタインのオペラ指向が気にかかる。なぜオペラ・スターを登用したのか、彼は《ポーギーとベス》のようなフォーク・オ ペ ラの伝統に続きたかったのか。やはりクラシックの伝統はアメリカン・ミュージカル・シアターよりも上なのか、分からないことは多い。その他、スペイン語の アクセントがあってはならないはずのトニーにスペイン語のアクセントが取れないカレーラスを起用したことということ(プエルトリコ移民であるマリアを歌う キリ・テ・カナワは、懸命にヒスパニック・アクセントを付けている!)にも、ミスキャストであるという批判も耳にしたことがある。ただ、オペラ畑でない歌 い手やオーケストラは素晴らしいし、カレーラスのように、<マリア>のハイBを楽譜どおりに歌う歌手は、おそらく実際のステージで見ることはないだろうか ら、そういう点では、このCDにも良さがあるのだろう(このミュージカルは、振り付けも相当ハードな訳だし)。

もちろん、このCDはそのような細かいことにこだわらないなら、「シリアス」な音楽ファンには「名盤」としてお勧めできるだろう。反対 に、クラシックの範疇でこの作品を捉えたくないのなら、オリジナル・キャストやサントラ盤から入るべきだろう。(01.4.12.改訂、 01.12.17.訂正、03.7.22.訂正

『バー ンスタイン ウェスト・サイド・ストーリー メイキング・オブ・レコーディング』(全 曲盤収録風景・リハーサル) 独 Grammophone 072 306-9(日Universal Classics & Jazz)UCBG-3015(DVD)

Bernstein Making of the Recording
晩年のバーンスタインが挑んだ名作ミュージカルのCD制作の過程を、そ の演奏に焦点 をおいて編集したドキュメンタリー映画。歌手たちのコメントが作品のみならず、バーンスタインの人間としての魅力も照らし出す。

おそらくこの映画の最大のハイライトは、ホセ・カレーラスの《サムシング・カミング》と《マリア》の収録場面。カレーラスはバーンスタインと熱い火花を散 らし、聴き手はテンポの揺れにハラハラし、最終テイクに格別の感動を覚える。筆者個人は、全曲盤そのものよりも、ずっと強い感銘を受けた。ぜひ一度ご覧 いただきたい。(03.12.28.)

抜粋盤
(1)ブロードウェイ・オリジナル・キャスト Columbia CK 32603(写真のは再発売されたもので、《シンフォニック・ダンス》(バーンスタイン/ニューヨーク・フィル)も収録されています)。

ヴォーカルがこれくらいのバランスで録音されているのは、ミュージカル として、大変聴きやすい。オーケストラがバーンスタイ ン指揮でないのを惜しむ 人もあるいはいるのかもしれないが、その演奏そのものは活力もあり悪くはない。作曲家の意図がうまく舞台にならなかったりプロダクションの都合でテ ンポが変えられたりカットがあったりするのは、こういう世界ではそれほど不思議ではないだろう。そういうカットやオーケストレー ションの詳細が気になる人は、おそらく原典にこだわる、クラシック肌の人なのではないかと思う(それが悪いという訳ではないけれど)。

また、ここに聴かれる歌唱は、オペラのベルカント唱法からすれば、きっと浅い発声ということになるのだろうが、こうでなければ英語の ディクションを 犠牲にすることになり、それではミュージカルの鉄則に反することになるだろう。また、<A Boy Like That>におけるアニタの嘆歌はベルカント唱法では無理だろう。プエルトリカン独特のアクセントも音楽表現の力強さとうまく融合している。 いろいろ問題点もあるのかもしれないが、やはりこのオリジナル・キャスト録音は、当ミュージカルの演奏史から抜かせないのではないだろうか。強く推薦す る。(01.4.12.執筆、02.4.24、03.12.28..改訂)

(02.4.24.追記)この録音はブロードウェイでの上演が始まってから3日後になされたという。この歌い手たちの新鮮な歌を聴くと、それも納得 できる。


(2)ベッツィ・モリソン(マリア)、マイク・エルドレッド(トニー)、マリアンヌ・クック(アニタ)、マイケル・サン・ジョヴァンニ(ベルナルド)、ロ バート・ディーン(リフ)、ケネス・シャーマーホーン指揮ナッシュヴィル 交響楽団

West Side Story Naxos盤
オリジナル・キャスト盤よりも収録曲が多く、録音の新しさもあってか、 フ レッシュな感じがする。<バルコニー・シーン>などのように舞台が目に浮かんでくるような心憎い演出のされたトラックもあり楽しめる。ある評論家が言った ように、現在上演される平均的水準の歌唱がここに収録されているのかもしれない。ナクソス・レーベルの廉価性も加えて、ぜひトライしてもらいたいCDであ る。(03.12.28.)


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