エイミー・ビーチ(1867〜1944)の音楽

ニュー・ハンプシャー州生まれのエイミー・ビーチは、16歳ですでにピアニストとしてデビュー。次の年には、ボストン交響楽団やセオドール・トーマスの管弦楽団と共演するなど、名声を早くから築いたが、1885年医者のヘンリー・ビーチと結婚してからは、作曲に専念する(公の場では「H. H. A. ビーチ夫人」という名で通っていた)。ピアニストのキャリアから遠ざかったのは、夫の母親が、家庭的な主婦であることを願ったのを察してのことのようだ(作曲ならば、家でできるだろうということ)。1910年、夫が亡くなってからは演奏活動を再開し、翌年ヨーロッパにも遠征。作曲活動は夏に行うことになった。1921年以降は、作曲家や音楽家の集まるコミュニティー、マクダウェル・コロニーにて、自作を披露し始める。

作曲は基本的に独学で、楽譜から習い、ベルリオーズの管弦楽法書を翻訳して勉強した。あらゆるジャンルに作品を残しているが、第2交響曲《ゲール風》などはヤルヴィが録音しているし、室内楽やピアノなどにも、気品高く優雅で甘美な作品が多くある。オペラも米Delosから発売されている。

近年の女流作曲家ブームも手伝ってか、ビーチは現在最も関心が集まっている作曲家の一人でもあるが、録音そのものはLP時代から少なくない。楽譜も多く出版されており、今後も広く録音されていくのではないだろうか。(02.01.04.)


大ミサ変ホ長調 マイケル・メイ音楽祭合唱団、ダニエル・ベックウィズ(オルガン)他 米Newport NCD 600008 ジャケット写真(36kb)

もともとはフル・オーケストラとオルガン、独唱歌手と合唱のために書かれた大ミサ曲。ロマン派らしい線的な和声進行を多く使い、情感たっぷりの音楽になっている。この作品を聴くと、彼女がアカデミズムの文脈で育った同時代のペインやパーカーよりも、ずっと冒険的なことをしていて、しかもそれが自己の表現と一体となっていることに気付いてしまう。すでにここに、アメリカが後に抱えるようになるアカデミズムと創造性の問題が現れていたのかもしれない。


ヴァイオリン・ソナタ イ短調作品34 デュオ・ポントレモリ 米Centaur CRC 2119
 
美しい跳躍を持った旋律線や、それをしっかりと支える豊かな和声、湧き出てくるリリシズムなどが魅力となっているビーチのヴァイオリン・ソナタ。ひたむきにロマンティシズムに浸るかと思いきや、最終楽章(第4楽章)にはフーガが登場し、古典的形式への傾倒も見られる。

このCDは、ヴァイオリン奏者のテクニックにやや不安もあり、鑑賞を楽しむものとしては物足りないかもしれないが、作品を知る資料としての価値はあるのだろう(作品の良さを感じさせる分には充分かもしれない)。いずれこの録音を聴いて、より良い演奏に挑戦する人が出現することを願っている。

同時収録はポーランドの作曲家バチェヴィッチによる、ヴァイオリン・ソナタ第4番。ビーチに比べると、相対的に冷めた感じのするリリシズムだが、そこに、ほとばしる情感はあると思う。演奏はこちらの方が幾分マシか。(02.01.04.)



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